私は、認定動物看護師という資格を持ち、動物病院で働いた経験があります。動物病院には、さまざまな症状をかかえた動物たちが来院しますが、病院スタッフが最初に接するのは動物ではなく、人間である飼い主さんです。
飼い主さんの意向で、動物たちの診察内容も変わってきます。なかには、え?と頭を悩ませるお願いごとをしてくる飼い主さんもいらっしゃいました。実際にあった無茶なお願いと、それにどう対応していたのかご紹介します。
猫をはじめ、動物を飼っている方が必ずお世話になる病院と、うまく付き合うためにどうするべきか、考えてみませんか。
私は、動物病院で働く前は一般企業で働いていました。ですので、病院と一般企業の差、例えば、働く環境や接する人たちとの違いを肌で感じることができました。
あくまでもここで紹介するのは私が感じたことですので、全ての動物病院に当てはまることではありませんが、参考にしてみてください。無茶な飼い主さんのお願いランキングを気になった順に紹介します。
この記事の目次
病院に行けばなんとかなる、病院まかせ
なんとなく普段と様子が違う、おかしいから動物病院に連れて行けば治るだろう、という安易な気持ちで来院される飼い主さんが意外と多いのです。例えば、次のようなことがありました。
- 病院に行けばなんとかなる、病院まかせ
- ハガキが届いたから来ただけ
- 妊娠したら出産もやってくれると思っている
病院に行けばなんとかなる、病院まかせ
動物の症状を詳しく知らない家族が連れてくる例です。いつもはお母さんが世話をしているので、一番状況をよく知っているのに、その日は都合が悪いので、お父さんが連れてきた、といった感じです。
病院側は連れてきたお父さんに聞くしかありませんので、いろいろ質問しても、曖昧な返事ばかりで診察がスムーズに進みません。
その場で、お母さんに電話をして聞いてもらう。もしくは直接、病院側とお母さんと電話で話を聞き出す必要があります。家族全員が、動物の状況を知っておくことが重要です。
ハガキが届いたから来ただけ
動物病院では、ワクチン接種などの時期になると各ご家庭にお知らせのハガキを出すことがあります。内容は書いてありますが、よく読まずにとりあえず来た。しかも数ヶ月前に届いたハガキで捨ててしまった。などという場合がありました。
カルテがあれば、過去の記録に沿って話を聞き出します。無い場合は、初診のように、問診から始めてとにかく話を聞き出します。
妊娠したら出産もやってくれると思っている
犬の場合でしたが、飼い主さんが知らないところで妊娠してしまい来院しました。レントゲンを撮り、予定日をお知らせすると、「ではその辺りに連れて来ますね」と病院にお任せする気満々の飼い主さんに驚きました。
出産は動物が自ら行うことで、それを補助するのが飼い主さんであることをお伝えします。その処置方法を教えて、問題があれば連絡してもらうことにします。
時間を守らない
残念なことに時間を守らない飼い主さんが非常に多くありました。人間の病院と動物病院との大きな違いはこれではないでしょうか。人間の病院の場合は、受付・診察・面会などの時間がきちんと守られています。
動物病院の場合は窓口が1つのところが多いので、受入れもオープンになってしまうのではないでしょうか。次のような方がとても多くありました。
- 診察時間外に平気で来る
- 診察時間内だがギリギリに来る
- 休憩時間に来る
診察時間外に平気で来る
診察時間外は、診察の準備や後片付けなどの時間です。もしくは緊急に処置をしなければならない動物の対応に追われている場合もあります。時間外に来た場合は、時間外診察料をいただく病院もありますので、時間は守るようにしましょう。
診察時間内だがギリギリに来る
ギリギリになってしまう場合は、まず電話で病院に確認をとりましょう。先ほど説明したとおり、診察時間を過ぎたら次の準備に取りかかりますので、対応がスムーズにできなくなってしまいます。
休憩時間に来る
休憩時間は、手術や入院している動物たちの処置の時間となります。
以前ご紹介した「動物看護師の1日は大忙し!そのやりがいやお悩みを探ってみる」の記事にあるように、休憩時間でも仕事はありますし、病院スタッフもしっかり休憩する時間を取らなければなりません。
もちろん、緊急の場合は別ですが、この場合も事前に電話をすることが必要です。人間の病院では時間外の対応はしてもらえませんし、緊急窓口は別にあります。比較して考えてみるとよく理解できるでしょう。
対処方法は次のとおりです。
・入口を施錠する
・電話を留守番電話にしてメッセージを入れてもらう など
薬だけ強引にもらおうとする。順番を守らない
薬は獣医師の判断無しでは処方できません。これも人間の病院と一緒です。窓口に来て「いつもの薬ちょうだい!薬だけだから早くね!」と簡単に言ってくる飼い主さんがいます。
薬は動物の症状を見極めて適切な処方をしないと、症状もよくなりません。そして、診察中の獣医師に横からお願いすることはできません。
順番に対応していること、獣医師の判断で処方できることを説明します。可能なようでしたら、獣医師に確認して対応します。
診察券を出さない
顔パスで通用すると思っている飼い主さんが意外と多いのです。カルテの数は動物病院の規模にもよりますが、何百人ものカルテをすばやく取り出してスムーズに診察につなげるためにも診察券は必要です。
・名前を聞き出し、カルテを検索する
・診察券の必要性を必ず説明する
将来的には、動物病院のカルテも電子化していくかもしれません。ただ、動物病院の診察室は立った状態で、問診したり処置をしたりするので、その都度データを入力するのは、現実的に無理があるような感じもします。
他にもあったショッキングな例
信じられないことですが、「犬を安楽死してほしい」と言って、元気な犬を連れてきた飼い主さんがいました。獣医師が詳しい理由を聞くと、噛みくせがひどくて、家族のケガが絶えないということでした。
獣医師は、飼い主さんを叱責することなく、冷静に毅然とした態度で対応しました。そして、今後この犬の情報は与えないという条件つきで、動物病院で引き取ることにしました。
それから、その犬を動物病院で観察すると、食事のときの所有欲が高いようで、食事中に手を出すと攻撃的になりましたが、それ以外のときはとてもフレンドリーな性格の犬だということが分かりました。
休憩時間に動物看護師が人に慣らすしつけをして、他の飼い主さんの紹介で新しい飼い主さんの元で飼われることになりました。
猫にもあり得るかも・・・飼い主さん失格にならないように
猫のツンデレで人に媚びない性格が、猫の魅力の1つですが、極端に現れてしまうと、飼い猫として手に負えなくなってしまうかもしれません。
同居動物との相性が悪いから手放したい
同居している他の動物とけんかばかりで、家のなかが騒々しい→うんざりする→猫を手放そう・・・。そういう考えにならないためにも、事前の相性チェックをきちんとしましょう。また、時間をかけてゆっくり慣らすことが必要です。
激怒症候群(突発性攻撃行動)という新しい病気もあります
気分によって甘えてきたり、そっぽを向いたり・・・そんなきままな性格が猫の魅力です。ただ、次のような状態が多く見られる場合は、もしかしたら病気なのかもしれません。
- 何の前ぶれもなく突然攻撃してくる
- 辺りにかまわず、きっかけが一定しない
- 眠そうなときに発症する
- シャーと威嚇しないでいきなり襲いかかる
激怒症候群(突発性攻撃行動)は、脳神経系の異常である「てんかん」発作が原因だろうと言われていますが、詳しい原因はまだ分かっていません。
突然攻撃してくる猫なんて、もう飼えない!と手放してしまう前に、病気を疑ってみることも必要です。その他にも、知らないあいだに猫にストレスを与えていないか、生活環境を見直してみましょう。
動物病院とうまく付き合うためにはルールを守りましょう
猫を飼っていて、動物病院に一度も行かない飼い主さんはいないでしょう。猫にとっては怖いイメージがある動物病院ですが、何度も行くことで慣れる猫もいます。
また、病院で何をどう説明したらいいか分からない。専門的なことは分からないから面倒だ。などと思われる方もいらっしゃるかと思います。病院側はどんな小さなことでもお話してくれることを望んでいます。
そこから、原因が分かってくることもあるからです。まずはお互い気持ちよく診察ができるように、時間を守るなど最低限のルールは守って通院しましょう。
そして、熱心に通院して病気の猫に真摯に向き合っている飼い主さんを病院側も応援しています。