現在、各地で野良猫に避妊去勢手術を受けさせ、エサや糞の管理を行って地域との軋轢を減らそうという「地域猫」活動への取り組みが進められています。
こういった緩やかに保護されている地域猫ではない、野良猫。人様のお庭も関係なく奔放に振る舞い、どんどん繁殖して増えていく野良猫は、春先にはひょこひょこと歩く子猫を連れ歩いています。
子猫たちはいずれ大きくなり、また子猫を生んで更に増えてしまう…そんな懸念はもちろんあります。野良猫を取り巻く問題はまだまだ山積み、とはいえ子猫一匹一匹の存在自体はそれはもう掛け値なしに可愛らしいものです。
野良猫の子猫はどんなふうに暮らして大きくなるのでしょうか。連れて帰って「うちの子」にする場合、どんな注意が必要でしょうか。
周辺に住み着いていた野良猫ファミリー2選
私の職場の周辺には野良猫がたくさん住み着いています。現在では殆どの猫が耳に切れ込みを持つ「さくら猫」となっており、子猫の姿を見ることもなくなりましたが、以前は毎年のように倉庫の中で産まれ、育ち、そして巣立って行きました。
その時の様子をご紹介します。
三毛猫母さんと三匹の子供たち
その三毛猫はある日突然現れました。勝手に社屋に入り込み、台所でツナ缶をなんとか開けようと転がしていたのが最初の出会いです。
缶詰に執着していたことや、毛並みの良さから、迷ったか捨てられたかした元飼い猫であることが伺えました。
周辺に住み着いたようで、その後も屋内に入りこんでは職員と遭遇して逃げたり、近寄ってきてエサを要求するように鳴いたりするのですが、すり寄ってきたり触らせてくれることはありませんでした。
一線を引いた対応を求めてくる割には人間は敵ではないと思っているらしく、私たちが外で作業しているとすぐ近くでのんびり寝そべりながらこちらを眺めていたものです。
そんな三毛猫が倉庫で3匹の子猫を生みました。そこは他の野良猫ママたちもよく生みに来る人気の産褥スポットなのですが、野良猫ママたちが要領よく子育ての合間にエサを食べに出かけるのに対し、この三毛ママはほとんど子猫のそばを離れませんでした。
エサもろくに食べていなかったようで、どんどん痩せて骨と皮状態になっていきましたが、子猫が歩けるようになると出掛けるようになり、肉付きも少し戻ってきました。今までの野良猫ファミリーと大きく違うのは人が行きかう社内の敷地で堂々と育児をしていた事です。
この動画は子猫が1.5ヶ月ほどのころの様子です。
▼YouTube動画 「野良猫の親子」
木に登ったり三毛ママに登ったりしっぽにじゃれ付いたり、3匹同時にとびかかられても絶対に怒らない三毛ママでした。
これは3~4ヶ月目のころ。この時分には自力で鳥を捕まえてきて子供に与える姿が目撃されています。これは瀕死の羽虫を子供たちに与えて狩りの練習をさせているシーンです。
それにしてもここ、社屋の玄関口でとても人の行き来が多い場所なんです。そんな場所でここまでドメスティックな育児を展開しているのにどうしてちょっとくらい撫でさせてくれないものか、と恨めしく思いました。
この写真を撮った夏が終わるころ、三毛ママは子猫3匹を残して姿を消しました。
野良猫の子離れは子猫が4ヶ月になったぐらいから始まり、親猫は自分のテリトリーを確保するために子供を追い払ったり、あるいは子供を置き去りにして自分が移動していきます。
三毛ママが事故にあったのか、子離れのために旅立ったのか定かではありません。
残った子供たちもまずメスのブチがいなくなり、終盤は職員にも愛想を振りまくようになっていた虎模様の兄弟も、冬には見かけなくなってしまいました。
生粋の野良、ブチ猫ママ
倉庫には段ボールや木箱がたくさんあります。野良猫ママたちはそこで空の箱を見つけて潜り込んだり、なんなら中のものはお構いなしにそのまま産んでしまいます。
生まれてから歩きだすまでの1ヶ月の間の子猫たちは母親のおっぱいに吸い付いている時以外は眠っており、糞尿は母猫が舐めてしまうため、寝床はほとんど汚れません。
しかし子育てしている場所とは別に破水のためか赤黒い汚れが残る箱を見つけることがありましたので、産む場所とその後のねぐらは別にしているのではないかと思います。
前述の人馴れした三毛ママは本当に例外的で、大抵の野良猫ママは目が合った瞬間にシャーっと威嚇してきます。この写真の野良猫ママは野良生まれ、公園育ち、近隣のブチは大体親族、という生粋の野良猫です。(ちなみに彼女の母猫もこの倉庫で彼女を産みました)
その場所は倉庫のため、職員が頻繁に出入りします。その日も用事があって引き戸を開けると、どこからか重低音の「うるるるる」が聞こえてきました。もしかして…とアタリをつけた箱を開けてみると。
でました、「シャーッ!」。完全なイカ耳、まごうことなき敵意です。私たちに見つかるとすぐに別の場所にお引越ししてしまう母猫もいましたが、大抵の野良猫はシャーシャー言いながらも、そのまま倉庫の中で子育てを続けていました。
子猫たちもいっぱしの野良猫、目が見えるようになると親を真似て、ちゃんといっちょまえに「シャーッ」をやります。歯も生えてないのに、毛もポワポワなのに。針金みたいな細いしっぽをピンと立てて威嚇してきます。
この可愛さの前には全面降伏、ニヤニヤしながら倉庫から撤退するよりありません。
三毛ママのように4ヶ月ごろまでずっと倉庫に住み着いているのはまれで、子猫の足取りからよちよち歩きの危うさが消える2ヶ月目後半ごろになると母猫は子猫たちを引き連れてどこかへ移動してしまいます。
猫は多い時で8匹の子どもを産みますが、そのすべてが大人になれるわけではありません。
ある日突然、倉庫の寝床が空になっているとおもえば冷たくなった子猫が一匹取り残されていたり、よちよち歩きの子猫が、隙間に落ちて出られなくなってしまったのでしょうか、積みあがった材木を撤去したときに亡骸が見つかることもあります。
母猫はお引越しの際に、子猫を一匹ずつ咥えて新居に運んでいきますが、途中、取り落とされてしまった子猫が、母猫が迎えに来るその前にカラスに襲われていた事もありました。
子猫が俊敏に動けるようになるまでは、私たち人間の気配が近くて気が抜けなくても、屋根と壁のある倉庫の中に留まりたかった母猫の気持ちはわかるような気がします。
野良猫ママの子猫たち。子猫を襲うのは雨風やカラスばかりではありません。地面の土や茂みから、もしくは野良暮らしの母猫から、病原菌をもらってしまう子猫も多いのです。
2ヶ月目くらいになった子猫たち。ふわふわした毛でわかりづらいのですがひどく痩せており、瞬膜の露出や目やになど、病気の兆しが表れています。
瞬膜が出た状態というのは単に目のみの異常では無く、全身的な病気の一症状としての顕れです。悲しい事ですが、この2匹は翌日に冷たくなっていました。野良猫はいわば野生動物、生き延びることは簡単ではないようです。
とはいえ、可愛いから、かわいそうだからと親猫に、そして子猫に無責任にエサだけ与え続けるのは禁物です。
猫は早い子ではオスで8ヶ月、メスで4ヶ月で繁殖が可能になります。2ヶ月の妊娠期間を経て、最大では8匹の子猫を産みます。繁殖期は年に一回ではありません。極端な計算をすれば一匹の子猫が一年で20匹に増えます。
そして上記の例のように、それらすべての子猫が元気に育って幸せに暮らせる可能性は極めて低いのです。
また、不用意に子猫を触ったりすることも決して子猫たちのためになりません。人間の匂いが付いたことで親が見捨ててしまったりするためです。
保護をする、一時保護をして里親を探す、いずれにせよ責任を持って関わって頂く場合の注意点を以下の項で挙げます。
野良の子猫を保護する前に
野良の子猫を見つけてほっとけなくなるその気持ち、よくわかります。でも野良の子猫を保護する前に、気を付けて頂きたい点が二つあります。
幼く、親きょうだいと一緒の場合
野良猫が増えていくのは悩ましい事です。放っておけばその子猫たちは成長し、また増えていきます。すぐにでも保護できるものならしたいもの。
しかし、猫にとって生まれて3ヶ月というのは母乳から基本的な栄養や免疫力を得たり、きょうだいと遊ぶことでコミュニケーションの取り方を学んだりするとても大切な時期です。
子猫を保温し続け、3時間おきに授乳や排泄を促すなど、人間が母猫と同じくらいのケアを代行するには相当な注意力と時間的なゆとりが必要です。
親子ともども問題なく過ごせているようなら、せめて小さすぎるうちはそっとしてあげた方がいいかもしれません。とはいえ3ヶ月を過ぎるころには結構な速度で走り回るので捕獲が難しくはなるのですが…。
迷い猫の可能性
ある程度成長して行動力のある(例えば5ヶ月齢ほどの)子猫の場合、迷子の可能性も考えられます。
以前、通りすがりの子猫がずっとついてきて、大きな通りに差し掛かったため一時保護したところ、実は道中にあったお宅の飼い猫が表で遊んでいただけだったということがあり、後日探しているとのご近所の噂を聞いて返しに行った事があります。
逆に、子猫を飼いはじめても外に出していると、こうした次第で簡単に迷子になったり事故に遭ったりするので注意が必要です。
子猫を保護したら、最寄りの保健所に迷い猫の届けが出されていないか確認するとともに、こういった猫を保護しています、と言付けておくと良いでしょう。
野良猫の子猫を保護したら
野良猫の子猫をキャリーや箱に収容したそのあとで、まずすべきことは「病院」そして「隔離」です。
病院に連れて行く
猫風邪、猫ジステンパー、猫エイズ、猫白血病…いずれもウィルスによって起こる致死率の高い病気ですが、ワクチン接種を受けていない野良猫の多くが罹患している、あるいは潜在的なキャリアであると言われています。
そうした親猫から生まれた子猫もまた、感染している可能性があります。皮膚病の原因となるノミやダニ、体内に巣食って宿主を衰弱させる回虫などの寄生虫のリスクもあるため、子猫を保護したらまずは病院に連れて行き、検査や健康診断を受けましょう。
健康状態や月齢をもとに、食べ物は固形でいいのか、離乳食の方がよいのか、はたまたミルクか、など当面必要なお世話の注意点も聞いておくと安心です。
先住猫とは隔離する
すぐに病院に連れて行けない場合、先住猫やその他動物への感染症や寄生虫の拡大を防ぐためにも、まずはケージに入れ、できれば部屋ごと隔離しましょう。真菌は人にもうつります。病院で検査や寄生虫の駆除が済むまでは濃厚な接触は避けた方が無難です。
また、基本的に猫は突然現れた後輩の事が嫌いです。飼い主さんが後輩をかまえばかまうほど、嫌いになり、初対面の印象が悪ければ長く関係性に影響します。
まずは別室で声と匂いと気配だけ漂わせ、徐々に距離を詰めて先住猫が自ら興味を示すまでゆっくり時間をかけて対面させるのが良いようです。(しかし、いきなりがっつりホールドして愛ではじめちゃう場合もあります。こればかりはケースバイケースです)
慣れるまでそっとしておく
野良猫の子猫にとってはいきなり見知らぬ場所に拉致されたも同然です。不安で鳴き続けたり、怯えて威嚇したり、粗相したりすることもあるでしょう。
ここは安全なところ、安心して暮らせるすみか、子猫がそう思ってくれるまで、あまり構いすぎず、子猫に思う存分探検させてあげてください。
とはいえ、思わぬところにはまり込んだり、落ちたりひっかかったりするので見守りは必要です。つきっきりになれないときはケージにいてもらうのが安心ですね。
野良猫の子猫も保護した日から飼い猫です
野良生まれの子猫は親の栄養状態によって先天的な欠陥を持っている場合もあります。野良暮らしの中で治らないハンデを負ってしまっている場合もあります。
野良猫の子猫はペットショップやブリーダーを通してお迎えした子猫たちのように、まったくの健康体ではないかもしれません。しかし、子猫は子猫、その存在の愛らしさに是非はありません。
猫は猫の方で飼い主を選んでやってくる、なんて冗談交じりに言われています。野良猫の子猫を保護せざるをえない、そんな局面に出会ったらそれはまさしくご縁というものかもしれません。どうぞ、めいっぱい愛してあげてくださいね。