ノネコと野良猫はどう違う?法的な位置付けの矛盾、日本と海外の事例

2018年3月環境省は絶滅危惧の固有種アマミノクロウサギの保護のため、奄美大島におけるノネコ管理計画の策定を発表、同年7月に山中に100基の箱ワナを設置して捕獲に乗り出しました。

こういった次第からも昨今ふとした折にニュースや新聞の見出しに踊る”ノネコ”の3文字。違和感を覚えた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

ヤマネコではない。野良猫でもない。別種の猫でしょうか?いいえ、イエネコです。ならばなぜ新聞の見出しはノネコと表記されるのでしょうか。ノネコと野良猫の違い、名前が違うその理由を解説していきます。

ノネコと野良猫とイエネコの違い

野良猫の違いと飼い猫の違いは言うまでもなく飼い主の有無ですね。最近は野良猫の中でもTNRが済んでいる個体を”さくら猫”、更にTNRが済んで地域や団体によって野良暮らしにありながらもトイレ場所や食餌を管理されている猫を”地域猫”と呼びわけたりもします。

そして当然の事ながら、野良猫は野良の親から生まれたか、飼い猫であったものが人の手で遺棄されたり逃げ出したり迷子になったりした末に野良暮らしをしているのであって、飼い猫と種族としてはなんら変わるところはありません。

生物学上の学名をフェリス・シルヴェストリス・カトゥスと称するヨーロッパヤマネコの家畜化した亜種、いわゆるイエネコです。

それではノネコはといいますと、これも同じく種族としてイエネコであり、遺伝学上の違いはありません。もともとは人に飼われていた猫が遺棄されたり、屋外飼育から野生化に至って繁殖した猫で、人間社会に一切依存せず、野山などで自力で狩りをして生きている野生の個体群を呼びます。

私たちの身辺にいる普通の飼い猫、野良猫たちとなんら変わることなく同じ生き物ですが、しかし事は単にちょっとワイルドな野良猫というだけに留まりません。

法的にイエネコと言えば”動物の愛護及び管理に関する法律”(動物愛護法)で愛護されるべき対象として位置づけられています。しかし、ノネコに関しては”鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律”(鳥獣保護法)で捕獲可能な狩猟鳥獣として一覧に加えられています。

しかし、例えばノネコの被害に悩む人が自ら山に入ってノネコを駆除して回っても法的に問題がないかというと、そういうことではありません。

ここでいう捕獲が可能とは、狩猟免許を有した人が猟期に定められた狩猟方法、地域において確実にノネコであると目視で確認できた場合のみ狩猟や捕獲が許されるという意味です。

山で猫を見たとして、それが本当にノネコなのか、山に踏み込んだ野良猫なのか、遊びに来ただけの室外飼育の飼い猫なのか一見して判別することは不可能です。

それが飼い猫だった場合は勿論のこと、野良猫も法的分類ではイエネコですから、当然愛護法の庇護下にあり、殺傷すると処罰の対象になります。つまり、捕獲可能な野生動物とは位置づけられてはいますが、狩猟の目的にすることは現実的でないと言えます。

ひとつの生物種が片や愛護動物、片や狩猟鳥獣に位置づけられているこの矛盾にモヤモヤを感じる方も多いのではないでしょうか。

昭和38年の第43回国会農林水産委員会において、林野庁指導部長がアメリカやカナダで野生化した犬、猫をファーラル・ドッグ、ファーラル・キャットと呼びならわして駆除や狩猟の対象と位置付けていることを参考にノイヌ・ノネコの定義付けを行い、昭和22年に狩猟鳥獣に加えたと発言しています。

ただし昭和39年に林野庁長官から姫路簡易裁判所へ出された回答文書の中では昭和22年ではなく同24年の規則改正の際に新たに命名したと記されているため、どちらが正しいかはより多くの資料を精査する必要があります。

議事録の中では出席した議員も私たちが感じるモヤモヤと同じ印象を抱いたようで、説明員に対し厳しい口調で多くの質問を投げかけています。

曰く「例えばノイヌの子を拾ってきて自宅で飼育したらどの時点から法的にイエイヌと判断されるのか?ネズミとノネズミは別種の生き物なのに、敢えて同じ動物をネコとノネコに分けるのは混乱を招くのでは?そんな曖昧な区分けの名称を法律に記すのは如何なものか」

この時の林野庁の回答としては「ノイヌ・ノネコとは動物の種類の名前ではなく生息の状態を指しているので」という事でした。

動物の種類ではないとしながらも、鳥獣保護法第3条別表第2における狩猟鳥獣一覧にはノネコはフェリス・カトゥスと記載されイエネコの学名フェリス・シルヴェストリス・カトゥス(Felis silvestris catus)ではありません。

同じくノイヌもイエイヌの学名カニス・ルプス・ファミリアリス(Canis lupus familiaris)ではなくカニス・ファミリアリスと表記されており、まるで別種の生き物としてのミスリードを期待しているかのようだという批判もされています。

しかし古くは猫の学名をイエネコ、ノネコ関わらずフェリス・カトゥスと表記するのが一般的であり、昨今の論文でもそちらの表記が散見されるため、印象操作と断言もできかねます。

ノネコ(猫)は1頭のメスが生涯で50~150匹の子猫を産む程に繁殖力が強く、その狩猟能力の高さからその土地の生物相を乱す存在として日本生態学会が定める日本の侵略的外来種ワースト100、国際自然保護連合が定める世界の侵略的外来種ワースト100に含まれています。

ノネコの分類の如何はさておいても猫という肉食動物が捕食者として、媒介動物として、自然環境に大きな影響を与えてしまうのは事実です。しかし猫をそういった状況に追いやったのはそもそも猫を遺棄したり無責任な飼い方をした人間であるというのもまた事実。

そのためノネコ問題では動物愛護の観点と環境保全の観点が真っ向から対立し、現在もなお紛糾が続いています。

日本と海外のノネコ問題

大きな島国であるオーストラリアには18世紀末に人間の手で持ち込まれるまで猫は存在しませんでした。そこへやってきた猫が200年かけて一部が野生化し、ファール・キャット(ノネコ)として生息域を山野に広げていきました。

そしてノネコの糞などを調査した結果、固有種絶滅の事例の原因となった外来生物の26%がノネコであることが判明しました。鳥類100種、哺乳類50種、爬虫類50種が失われてしまう事態に至り、2015年、オーストラリアは2020年までに200万頭のノネコの殺処分を目標として打ち出しました。

南インド洋上のケルゲレン諸島では同様に、ノネコによって年間300万羽ものウミツバメが捕食されているというデータが出ています。このノネコは50年前に島に持ち込まれたたった1匹の妊娠した雌猫の子孫たちだという事です。

猫は繁殖力が強く狩猟能力が高いために、食物連鎖の高次消費者に君臨します。島のような閉鎖的な環境ではその影響が大きく現れてしまうのです。

現在、環境省が例示している国内のノネコ被害は以下の通りです。

  • 北海道/天売島…ウトウ、ウミスズメ(捕食、営巣地の攪乱)
  • 東京都/小笠原諸島…アカガシラカラスバト、オガサワラオオコウモリ(捕食、営巣地の攪乱)
  • 鹿児島県/奄美大島と徳之島…アマミノクロウサギ、ケナガネズミ(捕食)
  • 沖縄県の山野…ヤンバルクイナ、ナミエガエル(捕食)
  • 長崎県/対馬…ツシマヤマネコ(生息域の競合と病気の媒介)
  • 沖縄/西表島…イリオモテヤマネコ(生息域の競合と病気の媒介)

主だった被害の内訳は、海鳥の巣に侵入して卵やヒナを食べてしまうために親鳥が寄り付かなくなって繁殖地が縮小したり、希少な小型動物を食べて数を減らしてしまったりといったものです。

希少なヤマネコ種と交雑はしないものの、島内の限りある獲物や縄張りを奪い合い、生存競争を激化させる他、喧嘩によってケガを負わせたり、猫エイズウイルスを感染させる事が深刻視されています。

小笠原諸島では2005年、調査によりノネコが海鳥の営巣地に壊滅的な影響を与えている現状をふまえ「小笠原ネコに関する連絡会議」を発足、2010年から大規模な捕獲を行い、保護されたノネコは都内で里親を探すプロジェクトを始めています。

ノネコの減少に反比例して2009年からはオナガミズナギドリの営巣地も増加傾向に転じていますが、都内に渡った小笠原出身のノネコの里親についてはそのほとんどが保護団体や預かり手の動物病院であることから譲渡は順調とは言い難いという指摘もあります。

しかし、小笠原猫で有名なマイケル君のようにノネコ出身でも人に馴れて飼い猫になれるというモデルケースを広く世に示しています。

鹿児島県徳之島ではどうぶつ基金の主導の下、2014年から2年をかけて島内の猫95%にTNRを施すことで猫の頭数をコントロールし、希少動物の生息域の拡大に成功したとしています。

しかしそのお隣、世界遺産登録を目指す奄美大島ではアマミノクロウサギの保護のために2018年3月環境省とノネコ管理計画を打ち立て、7月には大規模捕獲を行いました。

捕獲されたノネコは一週間で引き取り手が現れなければ殺処分されますが、完全に野生化した猫に一週間で引き取り手が現れる事は稀であり、これは実質的な大量殺処分と言えます。

それに加えアマミノクロウサギの死因の多くはそもそもノネコによる捕食ではなく交通事故でや森林開発による生息域の減少ではないか、という指摘もあり、このノネコ管理計画には猫の愛護を重視する側からは批判が高まっています。

南インド洋のアムステルダム島ではノネコの根絶計画を実施した結果、ネズミが増え過ぎたために計画が中止となりました。それでは、とネコとネズミを共に根絶させたインド洋上のバード島では捕食者であるネズミがいなくなったことでアシナガキアリが大量発生しました。

別のケースでは外来ウサギの侵入によって島の植物種が絶滅、それを餌としていた鳥類が減るという事態も起きています。問題となるのは”イレギュラーな事態で食物連鎖のバランスが乱れる事”であってノネコそのものではないはずです。

生態系を人間が完全にコントロールしようというのはそもそもが無理のある話であり、この問題の解決にはまだまだ時間を要するのでしょう。

ノネコを増やさないための取り組みを

現在、ノネコ問題を抱える多くの島では古くから蛇やネズミその他の害獣から家や田畑を守るために猫を屋外飼育にしてきた土台があります。やはり害獣から身を守るために犬でさえ繋がずに放して飼うのが一般的だったという地域もあります。

現代の常識に当てはめると飼い主の意識の低さのようにも見えますが、その土地で猫と人が共存するために長年に渡って作り上げてきたスタイルであり、猫を愛育するためにしか手元に置いたことのない都市部の住民が一概に非難するのは憚られる面もあります。

そういった環境で、長い時間をかけてノネコは数を増やして来ました。

現在では各地で飼い猫への避妊去勢、室内飼育やマイクロチップの導入への啓蒙が進められ、ところによっては飼養登録証の交付を受ける事を義務付けるなど行政や市民団体、そして飼い主が一体になって今後の改善にむけての取り組みがなされています。

ノネコ被害というと本土とは離れた島の問題としてクローズアップされることが殆どですが、ノネコ自体は本土の山にも存在しています。希少な固有種への被害が特に無いため、問題として取り上げられることはあまりありません。

人間の都合で迫害される事も多い都市部の野良猫に比べ、生存競争の只中にあっても山中でノネコとして生きていくのは生き物としては幸せかもしれません。それでもやはり、本来ならその場にいるはずのない生き物が増えすぎる事は自然環境には望ましい事とは言えません。

環境省は猫の飼い主に対して避妊去勢や室内飼育、マイクロチップの装着など終生に渡って責任を持つことや、ノネコ出身の保護猫の引き取りへの協力を呼び掛けています。

こうした未然に防ぐための知識を身に着け、広めていくと共に、既に結果として存在しているノネコたちの今後について、これからも関心を寄せていきたいものです。

あなたの一言もどうぞ

ページトップへ