多頭飼育崩壊はどこに相談するべき?食い止めるため私たちにできる事

多頭飼育崩壊と聞いてどんな様子を思い浮かべますか。糞尿が堆積した床面と限界まで散らかり尽くした室内、汚れたり病んだりしている猫たちがそこかしこでひしめきあってこちらを睨みつけているような、そんな光景かと思います。

時折ニュースに流れては私たちを慄然とさせるこの多頭飼育崩壊は、近年全国的に多発していて、今後も増加していくと考えられています。

このような現場を見聞きしたとき、一体どこに相談すべきでしょうか。悲惨な状況に置かれている猫たちのために、一個人の私たちができる事を考えてみたいと思います。

増えている多頭飼育崩壊の現状

繁殖制限を怠ったり、限界を考慮せずに次々と猫を迎え入れた結果、飼い主も猫も劣悪な環境下での生活を余儀なくされ、悪臭や騒音が近隣への深刻な被害ともなる多頭飼育崩壊。

今、これを読んでいる方の多くは恐らくゴミ屋敷ではない環境で、猫は飼っていないか、飼っていても1匹、多くても数匹の猫を大切にしているのではないでしょうか。

そんな私たちにとって多頭飼育崩壊といった状況はあまりに理解を超えるものであり、一部の人がごくまれに引き起こすテレビの向こうの困った事件、そう捉えてしまいがちです。

しかし近年、多頭飼育崩壊は全国的に急増しています。ニュースとして報道されたものでは2016年に10件、2017年に7件、2018年に至っては上半期だけで既に7件。

報道されるのは50頭以上の大規模なものが殆どですが、各地の愛護団体のブログなどをつぶさにチェックしていくと、実際はそれより少ない頭数でも悲惨なことには変わりがないケースがそこかしこで頻発しているのが現状です。

環境省が2016年に行った「地方自治体による動物愛護管理法の施行状況調査」では多頭飼育への苦情が2,199件上がっており、そのうち50頭以上の飼育環境にあったのは81件です。つまり計算上は報道されている件数の少なくとも27倍は苦情が出るほどの多頭飼育をしていると考えられます。

多頭飼育崩壊現場の猫へ不妊手術の助成を行っている公益財団法人どうぶつ基金では行政、あるいは愛護団体からの相談を受け付けていますが、およそ1週間に1件のペースで相談が寄せられているとコメントしています。

直近で私の住む町で起きた例では、野良猫にTNRをせず餌やりを続け、増えた子猫を室内に入れたりした結果どんどん増えていったということです。一度は愛護団体の介入で全頭に不妊手術を行うも、その後も餌やりを続け、新たな猫を迎え入れ続けた結果、猫は40頭を超えてしまいました。

飼い主の収入では餌代を賄うのが精いっぱいで不妊手術代はおろか怪我や病気の治療費すら捻出することはできなかったそうです。この件はニュースにはなっていませんし、近隣でもあまり知られていません。

つまり多頭飼育崩壊は私たちの身近なところで深く静かに進行していて、いつ発覚してもおかしくない状況なのです。

多頭飼育崩壊について相談するには

猫をどれだけたくさん飼育していようとも一匹一匹のQOLを保ったまま、近隣にも悪臭や騒音などの迷惑を一切かけずに暮らしていけるなら問題はありません。

それが崩壊につながるのは

  • 飼い主の許容を超えた頭数を迎え入れてしまう
  • 繁殖制限しなかった
  • 飼い主の高齢化によって飼育が困難になった

などいくつかの要因が重なり合っています。

動物愛護法7条では所有動物の適正な飼養を掲げ、みだりな繁殖によって適正な飼養が困難とならないような措置をとらなければならない旨が明記されています。

多頭飼育崩壊は違法行為であり、虐待なのです。それでも取り締まりが難しく、解決に時間がかかってしまうのは猫たちが飼い主の「所有物」でその住まいは「私有地」のため、飼い主本人の同意が得られなければ進展しづらいためです。

多頭飼育が明らかに崩壊しているような現場に直面したり、また近隣にあって悪臭や騒音などの被害をこうむった時、有効な相談先としては

  • 行政(保健所・市民課・生活課)
  • 動物愛護団体
  • 自治会

が挙げられます。以下、詳しく解説していきます。

行政(保健所・市民課・生活課)

まずは虐待に等しい状況を行政に把握してもらうために、保健所や動物愛護センターへ相談しましょう。飼い主へ環境の改善や猫の適正な飼育にむけた指導が行われます。

保健所によっては増えすぎた猫の引取りもしていますが、その場合には殺処分が前提であることが多く、飼い主が積極的に引取りを求めることは稀です。

問題を「住民の起こしているトラブル」としてとらえての相談先は自治体の市民生活課が適しています。担当者が出向いて様子を観察したり、改善に向けて指導を行うこともあれば、保健所と連携して対策を行う場合もあります。

飼い主の状況(例えば高齢や疾患で世話が出来る状態にないようだ、等)によっては社会福祉部局に相談してみるのも一つの手でしょう。

多頭飼育崩壊のネット記事を読んでいると「動物愛護法違反なのだから警察に通報すればいい」というコメントが散見されますが、警察は「ただ猫をたくさん飼っていて周囲に迷惑をかけている」だけでは動けません。

極端な例を挙げるならば往来で猫を解体しているなどの暴挙でない限り、多頭飼育崩壊のような現場では担当した警察官が「これはひどい」と思っても個人の主観や感情では取り締まることが難しいのです。

行政が現場を確認して「あきらかに虐待である」と判断したり、その後の改善指導に従わなかった場合にようやく動物愛護法違反の検挙対象になります。まずは行政に相談することが大切です。

動物愛護法25条では多頭飼育によって「騒音又は悪臭発生、動物の毛の飛散、多数の昆虫の発生等」が起き「周辺の生活環境が損なわれている」場合には都道府県知事が飼育者に対して改善するための措置を勧告、従わない場合は命令することができますし、各市町村の長に協力も要請できるとしています。

また、「多数の動物の飼養又は保管が適正でないことに起因して動物が衰弱する等の虐待を受けるおそれがある事態」にも同様の措置が取れる旨が明記されています。

住民から行政への働きかけや相談がその第一歩となるのです。

動物愛護団体

「地域名 猫 愛護団体」等で検索をかけるとTNRや里親探し等の猫の保護活動をしている最寄の愛護団体の情報がヒットすることと思います。

規模が大きく、多頭飼育現場の経験が豊富な市民団体やNPOでは飼い主との交渉、行政との連携、現場の猫たちのレスキューやその後の里親探し、と行政のみではまかないきれない細やかさで活動しています。

海外では10年以上前から多頭飼育崩壊を社会問題としてとらえ、官民一体となった対策を模索していますが、わが国では「民間の愛護団体に丸投げでほとんど動いてくれない」といった批判もよく聞かれます。

地域によっては対応に温度差があるのは事実のようですが、決して行政も「何もしない」わけではありません。ただ行政側にとっては抱えている多くの案件のうちの一つであるため、対応に時間がかかるのもやむをえません。

そうしている間にもどんどん子猫は生まれて増えて事態が悪化していくため、ボランティアの愛護団体が身銭を切ってレスキューや里親探しに奔走せざるを得ない現状があります。

私の近所の愛護団体では多頭飼育崩壊相談受付のブログを立ち上げて早々に1日1件ペースで相談が殺到したため、一旦締め切りの告知を出していました。個人の活動では人手、資金、場所にどうしても限界があり、多頭飼育崩壊からの猫を受け入れた団体が二次崩壊に至るケースも起きています。

状況によっては団体に相談しても介入が期待できないこともあるでしょう。それでも活動している多くの方が野良猫問題や多頭飼育問題に関心が高く、知識も豊富なので、解決の糸口を期待してまずは相談してみてはいかがでしょうか。

自治会

町内会や自治会など、地域の集まりで問題を相談してみるのも一つの方法です。この時、どうしても飼い主を糾弾する流れになりがちですが、「解決の糸口をさぐる」という目的の共有がブレないようにしましょう。

多頭飼育を崩壊させる飼い主は精神的な状況や個人のパーソナリティーによって社会的に孤立している場合が少なくありません。実は飼い主本人も困っていたけれど相談相手がいなかった、という場合もあります。

相談者一人が飼い主と話し合うよりも、町内会長など代表者を立て、自治会からのお願いや発案といった形で飼い主と話し合いを行った方がトラブルになりにくい筈です。

地域の話題にすることで飼い主と面識や接点のある人が見つかったり、行政に働きかけやすい人が見つかるかもしれません。

多頭飼育崩壊を未然に防ぐには

多頭飼育崩壊は飼い主が飼育可能な限界頭数を超えることで起きます。

次々と猫を拾い集めてきてしまうアニマルホーダーのように、精神的な問題に起因することもありますが、大半のケースでは当初一匹だった猫が、不妊手術を行わないままに外に出したことで妊娠、生まれた子猫が成長して近親交配を繰り返して増えてしまっています。

なぜ去勢避妊手術を行わないのでしょうか?

経済的な困窮はもとより、最も根幹のところには飼い主の知識の欠如があります。多頭飼育崩壊事件が起きるたびに飼い主は判で押したように同じフレーズをコメントしています。曰く「こんなに増えると思わなかった」。

猫の繁殖力の強さは、猫についての情報を積極的に得ている層には常識に思えますが、猫が好きな人であってもご存知でない方が意外に多いようです。

試しにしばらく日常会話で猫の話題が出るたびに「妊娠したメス猫が一匹いて、そのままにしておくと2年後には80頭まで増える」というお話しをしてみたところ、猫を飼っていない人のみならず猫を飼っている方でも驚かれることが多かったのです。

そこで「だから去勢避妊手術をすることは大切なのね」とならずに「でも手術代は高いから」あるいは「でも手術はかわいそう」というお返事が返ってきたらイエローシグナル。

経済的な理由によって繁殖制限を行わない場合には、経済的な理由による説得…つまりシンプルにお金の話をしたほうが伝わりやすいでしょう。

  • 月々のフード代、今が1ヶ月1,000円だとしたら2年後には毎月80,000円。
  • 自治体によっては手術に助成金を出している。
  • 多頭飼育崩壊は虐待にあたり、100万以下の罰金が科せられる事もある。(動物愛護法44条)

要は「今、手術しておかないと先々の出費のほうが大変」ということです。とにかく手術は高い、と思い込んでいる方は多いもの。助成金は具体的に問い合わせ先や助成額もお伝えできるとより効果的です。

“かわいそう”という意見にはやはり”かわいそう”でお伝えするのがいいのではないかと思います。

実際は多頭飼育でも80頭まで増えることは稀です。世話が行き届かない事により病気や飢えで死ぬ個体が増え、子猫は生まれた端から仲間、あるいは親に食べられてしまうからです。「そんな地獄のほうがかわいそうではないですか?」と。

これらは実際に多頭飼育が崩壊してしまってからでは意味をもちません(事態の悪化を防ぐために頭数制限を行うことには意味がありますが、ここではそれ以前の段階でできる予防を考えたいと思います)。

そして飼い主が猫を飼いはじめてしまった時にタイミング良く私たちが直接対話する機会はめったに無いでしょう。よしんば機会があったとしても、耳を傾けてくれるとは限りません。このシミュレーションは限りなく理想論です。

それでも家族や近しい関係の方が猫を飼い始め、先々多頭飼育崩壊が危ぶまれるようなスタンスにあるときには是非、こういった知識の啓蒙をお願いしたい所存です。

多頭飼育崩壊を起こした一般の飼い主には「無職(=経済的に困窮した)単身者」「高齢者」の割合が高いと言われています。共通するのは地域や社会との接点が乏しいため、相談する相手もいなければ介入する存在もなかった、あるいはストッパーとなりうる同居家族がいなかったという点です。

こうした単身住まいの飼い主が病気や老衰により孤独死して事態が明るみに出ることも多く、社会の貧困化、高齢化が懸念されている昨今、多頭飼育崩壊もまた起こりやすくなっているのではないかといわれています。

地域ぐるみで近隣の孤立世帯に意識を向けることもまた、多頭飼育崩壊を防ぐ一助になるのではないかと思います。

多頭飼育崩壊の猫たちのために

エアコンも無い室内は夏でも窓を締め切ったままだったそうです。糞尿はそこかしこに堆積していて、猫たちは仲間の上でも平気で排泄していたそうです。狭い一室で増えた発情期のオスたちは争い、耳のちぎれた猫もいれば睾丸のつぶれた猫もいたそうです。

猫たちを引き上げた部屋からは死体となった猫も見つかりました。レスキューされたときには妊娠しているメス猫もいましたが、この群れに生後半年以下の子猫はいませんでした。飼い主には問題の自覚はあったけれど、保健所に相談したら猫たちが殺されてしまうと思って動けなかったといいます。

我が家の猫は多頭飼育崩壊現場からやってきました。これは譲渡の際にお聞きしたこれまでの生育環境です。

悪気は無かった、猫を苦しめるつもりは無かった、虐待の自覚は無かった、野良猫をかわいそうに思って拾った、いずれの多頭飼育崩壊の飼い主はみんな猫が好きだったといいます。

猫は確かに掛け値なしにかわいいもの、という共感は持てますし、個人的には飼い主を糾弾する感情はありませんが、猫を飼う上で基本的な知識の欠如と責任の放棄はすでに罪だとは思います。

名古屋市はこの件を受けて10頭以上の多頭飼育には届け出の義務化を条例にする方針を打ち出しました。(埼玉県、大阪府、長野県、山梨県、千葉県、佐賀県が既に同様の条例を制定しています)

そして元の飼い主は今、愛護団体により刑事告発されています。これを書いている2018年8月現在、判決は未定ですが、今後の同様な事件への抑止力となることが期待されています。

「臭いに困っているけれどよそが飼ってる猫に口出しできないし」とためらわず、「役所に言ったってどうにもならないだろうし」と諦めず、どうか相談してください。

上記の件の収束も、端緒は近隣からの住宅供給公社へのクレームや保健所への通報でした。悪臭、騒音などの兆候に気づいた人が問題として認識すること、各所に相談して働きかけることが解決への一歩となるのです。

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