日本の朝ごはんのレギュラーと言っても差し支えない納豆選手、あの匂いとネバネバが一日の始まりに元気をくれる食材です。
ところで、飼い主さんが納豆をネバネバモグモグしている時、愛猫はどんな風にこちらを見ていますか?怪訝そうにお鼻スピスピ、そのニオイちょっとご遠慮申し上げたいといった様子でしょうか、それともお目々キラキラ、一口ご相伴に与りたい!と前向きに興味を示しているでしょうか。
可愛い一声でおねだりされればちょっとはあげてみたくなるのが飼い主のさがというもの、果たして猫に納豆は与えても大丈夫なのでしょうか。あげるとしたらどんなことに注意すべきでしょうか。猫と納豆についてまとめました。
注意点を守れば猫は納豆を食べても大丈夫
納豆は日本の伝統的な栄養食であり、優れた健康食品として知られています。しかしあの匂いがどうしてもダメ、という人が少なくありません。人間より何万倍も嗅覚が優れた猫なれば嫌がって当然かと思いきや、意外に納豆を食べたがる猫は多いようです。
納豆の匂いの原因は納豆菌がたんぱく質を分解することで発生するアンモニアやジアセチルです。美味しい食べ物の話をしている時に恐縮ですが、アンモニアはトイレでおなじみのあのニオイ、ジアセチルは使用済み靴下のあのニオイの原因となっている物質です。
猫が自分のトイレの周りや脱ぎたての靴下を嗅いで途方もない表情をしているのを見たこともある飼い主さんも多いのではないでしょうか。あのニオイたちは猫のフェロモンに似ているので、猫にとって納豆の匂いは好き嫌い以前に”気になっちゃう”匂いのようです。
特に人間の食卓に上がっている時の納豆はタレのかつおだしの匂いも漂わせていますし、飼い主が美味しそうに食べていればなおのこと、猫たちは気になってしまうのかもしれません。
それでは欲しがる猫に納豆を与えても問題は無いのでしょうか?
味噌や醤油、漬物や干物といった発酵食品は猫には与えてはいけませんし、大好きな猫も多いチーズもタイプによってはあまり推奨されません。猫に発酵食品を与えて良い、悪いの判断基準の一つは塩です。
塩納豆などは別として、一般的な納豆は水に浸した大豆を煮て、納豆菌を添加し、保温して発酵させて作られます。塩を使っていませんので量と与え方、アレルギーに気を付けていれば猫に与えてもさしつかえの無い食材と言えます。
それでは猫に納豆を与えるメリットとデメリットを具体的に見ていきましょう。
メリット【肥満・便秘・血栓の予防が期待できる】
大豆は畑のお肉とも呼ばれるようにたんぱく質の豊富な食材ですが、猫はあくまで肉食動物、植物性のたんぱく質を十分に栄養として消化吸収できるわけではないため、私たち人間が大豆に期待する栄養効果を猫も得られるかというと別です。
しかし納豆になった大豆は納豆菌の働きでビタミンやミネラルが増強され、消化率も1.5倍ほど上がります。ビタミンやミネラルは直接的な栄養にはならなくとも、体内のバランスを整えて新陳代謝を促し、栄養を吸収する手助けをしてくれます。猫に与えるなら大豆より納豆の方が向いているんですね。
例えば大豆に含まれるイソフラボンやカルシウムは骨を丈夫にするのに役立ちますが、納豆として発酵させたことによって高められたビタミンK2は、そのカルシウムが骨に沈着するサポートをします。
そして納豆特有のあのネバネバ、その名もナットウキナーゼは血栓を溶かし血管を健やに保つ働きをします。このネバネバにはグルタミン酸が含まれ、うま味を感じさせるだけでなく胃壁を守り、老廃物の排泄を促して腸管の通りを良くします。
納豆菌は乳酸菌よりはるかに強く、胃酸に耐えて生きて腸まで届くため、そこで発酵して善玉菌が繁殖する手助けをします。納豆自体にも善玉菌のエサとなる食物繊維も豊富に含まれていますので、ダブルで腸内環境を整えてくれる便秘の予防の強い味方というわけです。
体の抵抗力を高めて病気になりにくい体を作ってくれるのに加え、その強い繁殖力で悪い菌を駆逐してくれるため、天然の抗生物質とも呼ばれています。
消化に時間がかかるという事は腹持ちも良いという事なので、すぐにお腹の空いてしまうダイエット中の猫のちょっとしたおやつにも良さそうです。納豆にすることで大豆の3倍近く増えるビタミンB2は脂肪をスムーズに分解、燃焼させる手助けをしてくれます。
デメリット【アレルギーや消化不良の可能性】
どのような食材に関しても言える事ですが、大豆にアレルギー反応を示す猫にとって納豆は害になってしまいます。
確認のためにもいきなりたくさん食べさせるのではなく、最初は1,2粒を与えて様子をみます。その後かゆがったり、毛の薄いところで皮膚が赤く腫れている様子がみられたり、嘔吐や下痢などの異状がみられた場合は、それ以上納豆を与えないで下さい。
アレルギーを起こさなかったにしても本来猫が不得手な大豆ですから、消化不良を起こしてしまうことも考えられます。症状が治まらないようであれば動物病院へ連れていき、獣医師の判断を仰ぎましょう。
また、多くの健康効果が期待できるという事はそれだけ作用する成分が多いという事です。療養食や血栓に関わるお薬を処方されている場合、治療の妨げにもなりかねませんので、決して与えないようにして下さい。
まだ消化器官が完成されていない子猫や、逆に弱ってきている高齢猫にも控えた方が良いでしょう。
猫に納豆を与える時の注意点
猫に納豆を与える時に注意する点は、形状・味を付けない・量・放置しない、の4点です。詳しくご説明していきます。
細かくするか、ひきわり納豆を選ぶ
腹持ちが良い、ということは非常に消化されづらい食品であるという事です。雑食性の人間でも丸のままの大豆や納豆を噛まずに飲み込んだ場合、100%完全に消化する事はできません。ましてや肉食動物の猫、しかもご存知の通り、猫はあまりよく噛まずに喉で味わう食事スタイルです。
消化不良の懸念に加え、大粒納豆では喉に詰まってしまう危険も考えられます。消化されにくい薄皮は取り除き、細かく刻むか潰して食べやすくしてから与えて下さい。
この時オススメなのがひきわり納豆です。ひきわりは粒納豆を刻んであるもの、と思われている方も多いのですが、あれは大豆をあらかじめ砕いてから発酵させています。刻む手間が省けることはもとより、砕いたことにより増えた表面積にも納豆菌が繁殖して、より効率的に納豆の成分を摂取できます。
タレ・カラシ・薬味は入れない
猫は薄味好み、というか味より匂いや食感、栄養を重視して食事をします。味付けのお気遣いは御無用。付属のタレやカラシ、薬味のネギなどは入れず、そのままの味を楽しんでもらってください。
多くても1/4パックが限度です
いくら栄養や有効成分が豊富と言っても、何事も過ぎたるは及ばざるがごとし。人間でも1日に何パックも連日食べ続けるとイソフラボンによるホルモンバランスの乱れやセレンによる嘔吐や下痢、胃腸障害や爪の変形、脱毛などの悪影響が出てきます。
大豆より消化しやすいとはいえ、猫にとって植物性の食品は大量に摂取するとアレルギーや消化不良の原因になります。猫が食べて良いのは数粒か多くても1/4パック程度とお考え下さい。
出しっぱなしにしない
ちょこちょこ食いをする猫などの場合、ドライフードを出したままにして猫の食べるペースに任せているお宅も多いと思います。同じように納豆も出しっぱなしてしまうと、夏場など特に傷んでしまう事があります。
ごはんのタイミングで食べなかった納豆は放置せずに片付けて下さい。納豆はもとから腐っているのでそれ以上は腐らない、と言われたりもしますが、限られた基盤(大豆)の上で納豆菌が活動しつくして枯渇すれば雑菌がはびこって普通に腐ります。
賞味期限を多少オーバーして表面に白い粒が浮いている状態は納豆菌の守備範囲内ですが、ネバつかなくなったり、刺激を伴う強烈なアンモニア臭がしていたら納豆菌が死滅してしまった証拠です。
私はこの夏、好奇心から食べてみて大変な思いをしました。まず食べないとは思いますが、決して猫に与えないようにしてください。
猫に納豆の好みはあるのか
我が家で以前暮らしていた猫はキャットフード以外を好まず、飼い主が納豆を食べていると「そんなネバネバしてるものを食べるしかないなんてカワイソウ…」と憐れみと軽蔑のこもった眼差しをくれていました。
そうした経験から今暮らしている猫も納豆には興味がない、と思い込み猫のいる部屋のテーブルにキムチ納豆(人間のおやつ用)を出しっぱなしにして席を離れた時の事です。再び戻った時、猫はキムチと納豆でベトベトになったお口でむーちゃむーちゃと糸を引かせながら舌なめずりしていました。
納豆はまだ良いのですが、よりによってキムチ納豆。これは飼い主失格レベルのミスです。キムチは香辛料、ニラ、ニンニク、そして大量の塩といった猫の体に最悪の組み合わせで出来ています。幸いにしてその後、猫の体に異常は出ませんでしたが、皆様はくれぐれもお気を付け下さい。
しかし、キムチをものともせず食べるほど納豆がお気に召したのなら、好みの銘柄も見つけてあげたい!と思い、納豆の食べ比べをしてみることにしました。
用意したのは、においが少ない納豆・一般的な小粒納豆・ちょっとお高い黒豆納豆の3種類です。人間も目隠しして嗅ぎ比べてみましたが、確かにそれぞれ匂いの違いがあり、小粒の方が匂い少より匂いが強く、黒豆は匂い少と比べても匂いが弱くあまり納豆という感じはしません。
猫にはそれぞれの納豆を細かく刻んだものを小さじ1杯弱ずつ、日をあけて4回試食してもらいました。さて、結果はどうなったでしょうか。
動画に入っていない初日は黒豆→匂い少→小粒の順だったのですが、それ以降はすべて匂い少→小粒→黒豆という順序になり、明らかに選んで食べ進めているようでした。
結論【匂いが強ければ良いというわけでもないらしい】
宅の猫の場合はにおわない納豆が一番好みだったようですが、よそのお宅の猫ちゃんにも聞いてみたいところです。
猫の納豆ライフは無理のない範囲で
納豆は猫にとって本来であれば食べなくても問題のない食べ物です。健康への効能を期待して毎日食べさせた方がいい、というより悪影響の出ない嗜好品といった程度に考えた方がいいのかもしれません。
ですので、食べたがらない場合は無理に与える必要はありません。ただ、どうしても納豆パワーを猫のごはんにも積極的に取り入れたい、と思われるのでしたら市販の猫用納豆やペット用の納豆菌サプリなどを利用する方法もあります。
完全栄養食のフード以外を与える必要は無いとは言うものの、体調不良で食欲が落ちてしまった時、「好きな食べ物」があるのは強みになります。
もし愛猫に納豆をおねだりされたら、ちょっとだけおすそ分けしてみては如何でしょうか。飼い主さんが食べているもの、それはきっと猫にとって格別に嬉しいおやつになることでしょう。