愛猫のクローンを作るにはどうしたらいい?ペットクローンの発展と今

猫は一匹残らず可愛い生き物です。猫好きからすればどの子もみんな生きた芸術品なわけですが、とりわけ飼い主にとっての飼い猫は世界で一番輝いて見えるはず。どんなによく似た毛色でも、同じような模様でも、他の子には代えられない唯一無二の存在と言っても過言ではないでしょう。

もしクローン技術で「うちの子」とまったく同じ猫を作り出したとしたら、家庭内に可愛い猫が倍増してくれてしまうのでは?そしていつか別れの時が来ても、クローンを作ればずっと一緒にいられるのでは?

愛猫のクローンを作る、そんなSFのような世界は果たして今、どのくらい私たちに近づいているのでしょうか。

世界初の2頭のクローン猫

初めての哺乳類のクローンとして有名になった羊のドリー誕生から22年、今やクローン動物は世界中で作り出されています。その多くは牛や馬などの家畜であり、実験用の生体としての豚です。

そしてついに2018年中国の研究チームが猿、つまりヒトに近い霊長類のクローンに成功しました。日々発展を遂げるクローン開発の世界ですが、気になる猫はといいますと、2001年以来、既に数多くのクローン猫が誕生しています。

まずはその先駆けとなった有名な2頭のクローン猫をご紹介していきましょう。

世界で初めてのクローン猫「CC」

2001年12月22日、テキサス州のA&M大学は猫のクローン作出の成功を発表しました。

もともとA&M大学は農業大学として家畜のクローンを研究開発していましたが、家畜クローン研究の世界に家庭のペットである猫が加わったきっかけは何だったのでしょうか。そこにはアメリカの教育機関大手アポログループ会長のジョン・スパーリング氏の存在がありました。

スパーリング氏は愛犬ミッシーのクローンを作りたいと考え、2000年にペットクローンの研究を行うGenetic・Savinge&Clone社を設立、クローン技術を持つA&M大学にも資金提供が行われ、missyplicity projectが始動しました。プロジェクトの一環として、まずは猫が作られたのです。

「Operation Copy Cat」というプロジェクト名を取ってクローン猫はCCと名付けられました。

三毛猫のレインボーから採取された体細胞を卵子に移植し、代理母アリーの胎内を経て誕生したCCですが、レインボーと同じ遺伝子情報を持つにもかかわらず、三毛猫ではなくキジともサビともつかない黒ベースの背中と白いお腹を持っていました。

猫の毛色は遺伝情報のみならず、毛色が決まるタイミングでの胎内環境に大きく影響を受けるため、また三毛の色を持つ遺伝情報は2色しか引き継がれないためです。また、大人しく体格もふくよかなレインボーに比べ、CCは活発でスリムという違いがありました。

研究チームの一人、デュアン・クレーマー教授は「クローンペットがもともとのペットと性格や行動まで同じ個体だと期待してはいけない」「クローンは甦りの技術ではなく再生産しているにすぎない」とコメントしています。

その後CCはクレーマー教授の自宅に引き取られ、2006年には4匹の子猫を出産し、夫猫と子猫たちに囲まれてごく平凡で幸せなニャン生を送ったようです。

初の飼い猫クローン「リトルニッキー」

ノーステキサス州在住の女性が2003年に飼っていた19歳のメインクーンのニッキーが死んだことから、前項のCCクローンに出資したクローン会社Genetic・Savinge&Clone社(以下GSC社)に依頼、2004年10月17日、リトルニッキーが誕生しました。

商業ベースで飼い猫のクローニングが行われたのは世界初となります。飼い主の女性曰く、見た目も性格も生前のニッキーに瓜二つであり、猫には珍しく浴室などの水場を好む性質までもが受け継がれていたとの事です。

リトルニッキーは先代ニッキー同様に彼女の心を十分に癒す事ができたようですが、かかった費用は5万ドル。現在の日本円にして実に550万円です。

生命をテクノロジーで作り出す事への批判は当時から昨今に至るまで歴然としてありましたが、かかったコストの高さから、動物愛護団体を筆頭に様々な方面から「そのお金でかわいそうな猫たちを引き取ったり保護活動をするべきだったのではないか」との批判に晒されてしまいました。

リトルニッキーのその後は詳しく知られてはいませんが、クローンであるが故の身体的欠陥などは見当たらず、今はその亡骸がロンドンの動物博物館Grant Museum of Zoologyのホルマリン水槽の中で展示されています。

ペットクローンビジネスのその後

生命に対する倫理的な立場からの批判や不安はあれども、CCとリトルニッキー、2頭の健康なクローン猫の誕生でペットクローンビジネスは大きな期待と関心を集めました。特にA&M大学やGSC社には多くの飼い主から問合せが相次いだと言います。

ますます盛り上がるかと思われたペットクローンビジネス、しかしその顛末は意外にも寂しいものでした。

CCを生み出したA&M大学は当時ペットの遺伝子標本を保管する有償サービスも行い、精力的にペットクローンビジネスへ参入していくかと思われましたが、その後は猫全般とペット分野から手を引き、従来の家畜クローンの研究に戻ったようです。

GSC社はリトルニッキーを含め5匹のクローン猫を”完成”させましたが、2006年、クライアントたちに「商業ベースで運用可能な技術の開発が出来なかった」という意の手紙を送り、閉鎖しました。

当初5万ドルだった価格も廃業するころには3万ドルまで値引きされていましたが、それでも需要はあまりに少なかったようです。

CCが示していたように、猫のクローンは必ずしもオリジナルと同じになるわけではないために依頼主の満足を得ることが難しく、生まれた5匹のクローンのうち、実際に売れたのは2匹だったといいます。

2009年にはペットクローン大手のBioArts Internationalも廃業していますが、その背景には市場の伸び悩みに加え、技術特許を巡るトラブルがあったようです。

特殊な設備やプロセスを必要とするので高額にならざるを得ないこと、技術的に難易度が高いこと、そして必ずしも外見、性格、行動がオリジナルに似るわけではない事が敗因でした。

余談となりますが、巨額を投じても愛犬のクローンを作りたかったスパーリング氏の夢は2007年、韓国のスアム生命工学研究院によって実現しています。無事にミッシーは「再生産」されたのです。この研究院は2005年に世界初の犬のクローンを成功させて以来、2018年にも世界最小ギネス記録保持チワワ、ミラクルミリーのクローンを49頭誕生させたことで話題になるなど、現在もペットクローン技術の最先端に立ち続けています。ペットクローンの研究は、スパーリング氏のミッシー愛によって発展してきたと考えるとなかなかにロマンですね。

それでは現在、すべてのペットクローンビジネスが猫から撤退してしまったのかというとそうでもありません。

アメリカの女優バーブラ・ストレイサンド氏が2018年の初めに現在飼っている2頭の犬が、亡き愛犬のクローンであることを明かし話題となりましたが、この2頭のクローニングを手掛けたテキサス州のViagenPets社では犬だけではなく猫のクローンも請け負っています。

同社は動物クローンの成長期ともいえる2002年頃に家畜のクローンを始め、2015年からは犬や猫などのペットクローンに乗り出しました。

気になる費用は、なんと2万5千ドル!250万円と言えば決して安価ではありません。しかしペットクローン第一号のリトルニッキーは5万ドル、現在スアム生命工学研究院が請け負う犬のクローンが一頭10万ドルであることと引き比べると思いのほかリーズナブルなような気がしないこともないですね。

実際にクローン作成はしないとしても、1,600ドルで材料となる遺伝子サンプルを預けておくことも可能で、公式サイトの”お客様の声”には、いつの日かうちの子の復活を、と夢見る飼い主のコメントも散見されます。

ところでサイトにはクローン猫の毛色の再現が不確実であることの説明が見当たりません。そのあたり、どのように顧客満足度を維持しているのか、気になるところではあります。

猫のクローンをめぐる是非

お金と熱意がたくさんあれば、今の世の中、愛猫亡きあとクローンを作ることも可能なのです。例えば、去勢や避妊を施した飼い猫の分身とも呼べる子猫を得る事だって望めるでしょう。

植物は種イモを切り分けたり、枝を挿し木したりして現物からそのまま増やすことができますが、動物の場合は例えば毛の一本からまるまるその動物を複製できるかというと、現在の技術ではまだそこまではできません。

クローンのプロセスには、受精卵の状態で分裂させた卵細胞を一つ一つばらして中身だけを空の卵子に移す事で強制的に多胎児(双子や三つ子)を作る卵細胞クローンと、体の皮膚や肉から採取した体細胞から核を取り出して空の卵子に移す体細胞クローンがあります。

ペットのように特定個体のクローンを作るには体細胞クローンが適していますが、いずれにせよ、必ず必要となるのが中身のDNAを抜き取った器としての卵子、そしてそれを代理出産する雌です。

例えばCC作出の際、用意された胚は87でした。その胚のすべてがうまく細胞分裂を起こすとは限らないし、うまく代理母の胎内に移す段になったとしても、胎内で胚がうまく育たなければまたやり直しとなります。

ペットクローンに対する動物愛護の見地からの批判としてはクローン1頭を生み出すためにかかる費用を保護活動に充てれば、多くの猫を救えるのに、といったものがあります。

こちらは「××に出資したなら●●にも寄付すばいいのに」というのにも似てあまり共感できないのですが、消費される胚もまた本来なら命になれたかもしれないこと、検査や堕胎や出産を繰り返さなければいけない代理母の負担を考えると倫理的に引っかかるものがあるのは確かです。

とはいえ、そうまでしても愛猫にもう一度会いたいと考える飼い主さんの気持ちは同じ猫飼いとして察するに余りあります。同じ遺伝子の猫を得る事で、心に空いた猫型の穴を埋めようとするのも否定できることではありません。

ただ思うのは、クローンは遺伝子を再生産できても、同じ魂までは呼び戻すことはできない事です。飼い主さんと積み重ねた思い出や経験は新しいその子の中にはいないのですから。

人間もご先祖を30代遡ればどこかしら血縁で繋がっていると言いますし、人間よりも多産で短命な猫なればこそ、目の前に現れた次の猫がクローンで無くても、どこかでDNAは繋がっていると考えた方がお財布にも、何より心にも優しいような気がします。

「猫は毛皮を着替えてまた戻ってきてくれる」という説もありますしね。

あなたの一言もどうぞ

ページトップへ