「猫は九つの命を持つ」という迷信を聞いたことはありませんか?猫は九つの命を持っているため、一度死んでもその命を使い切るまでは生き返るというのです。猫の飼い主さんにとっては、ちょっと嬉しくなるようなお話ですよね。
残念ながら他の生き物と同じで猫にも命は一つしかありませんが、どうしてこのような迷信が生まれたのでしょうか。
実はこの話を辿ると、古代エジプトにまで行き着きます。長い間、世界中で語り継がれてきたこの迷信について詳しくみてみましょう。
猫に九生あり「A cat has nine lives.」
ヨーロッパでは昔から「猫は九つの命をもつ」「猫に九生あり」と言われ、「猫は九つの命をまっとうするまでは天国にも地獄にも行けない」とされてきました。
英語では「A cat has nine lives.」と言います。猫は9つの命を持っていて、一度死んでもまた生まれ変わることができると信じられていたのです。
こう聞くと、猫の飼い主さんは「うちの子にもしも何かあっても、また生まれ変わってくれる」とホッと安心するような嬉しいような気持ちになりますが、この言葉の本当の意味はそんなことではないようです。
実はこの言葉には、猫は「執念深い」「しぶとい」「殺しても簡単には死なないようなヤツ」といったようなニュアンスがあるようです。愛おしい猫のことをそんな風に言われるのは悲しくなりますね。
では、なぜ九つの命があると言われるようになったのかもう少し詳しくみていきましょう。
まるで不死身!想定外の猫の身体能力
猫が九つの命を持つと言われるようになった理由は、猫の普段の行動や優れた身体能力などにあると思われます。
猫には、犬などの他の動物にはあまりない次のような特徴があります。昔の人はそんなたくましい猫の様子を見ていて、「猫は不死身で、きっと命を九つくらい持っているに違いない」と考えるようになったのかもしれません。
猫ならではの特徴とは、例えば次のようなことです。
- 高所でも、自由に飛び乗ったり飛び降りたりできるジャンプ力がある
- もしも高所から落下してしまっても、うまく着地ができる
- バランス感覚に優れて、塀の上などでも平気で歩ける
- 怪我などからの回復力が高い
- たまに家に帰ってこないことがあるが、諦めたことに帰ってくる
- 魔女の使い魔だった
ご存知のように、猫の身体能力は人間とは比べものにならないくらい優れています。人間だったら命を失ってしまいそうなことでも、猫は平気でやってのけます。他の動物と比べても、その身体能力は優れていると言えるでしょう。
猫は人間(犬などでも)ではとても不可能な高さでも、平気で飛び乗ったり飛び降りたりします。自分の身長よりも何倍も高いところから、余裕で飛び降りられるのです。
もしも高所から落ちてしまうようなことがあっても、うまく着地をすることができます。そして塀の上のような幅の狭いところであっても、優れたバランス感覚のおかげで余裕で歩くことができます。怪我などからの回復力も高いとされます。
このような身体能力の高さから、「猫は九つの命を持つ」と言われるようになったのかもしれません。
そして猫は気ままな動物で、たまに家に帰ってこないこともあります。最近は室内飼いが多いためそのようなケースは少ないかもしれませんが、一昔前、自由に家の内外を出入りしていた時代には、猫が帰ってこないということもありました。
何日も帰って来ず、何かあってもう死んでしまったのかもしれないと諦めたころに、突然帰ってくることもあったのです。そんな猫の行動を見て、昔の人は猫には命がたくさんあるのかもしれないと思ったのでしょう。
猫は魔女の使い魔とされていた時代も忘れてはいけません。中世ヨーロッパでは魔女狩りが行われ、猫はその魔女たちの使い魔であるとして迫害された悲しい歴史があります。その流れで、猫には九つの命があると信じられたのかもしれません。
どうして「九つ」の命?その数字にも意味がある
昔の人は猫のいろいろな行動を見て、もしかすると猫にはいくつも命があるのかもしれないと考えました。そして「九つ」の命を持つというようになったのですが、なぜ「9」だったのでしょう。
この「9」という数字にも、実は深い意味が隠れていると考えられます。「9」という数字は昔から、いろいろな地域や宗教で神聖で特別な数字とされてきたのです。
古代エジプトにおけるヘリオポリスの九柱の神々
「ヘリオポリス」とはカイロ近郊にある古代エジプトの都市です。エジプト神話には「ヘリオポリス九柱神」が地球や人類を造ったとする神話があり、昔から人々にあがめられてきました。
ちなみに神様は「柱(はしら)」と数えます。「九柱神」とは「9人の神様」ということです。
ヘリオポリス九柱神は次の神々です。
- アトゥム:「創造神」シュウとテフヌトの父
- シュウ:「大気の神」ゲブとヌゥトの父
- テフヌト:「湿気の神」ゲブとヌゥトの母
- ゲブ:「大地の神」オシリス、イシス、セト、ネフティスの父
- ヌゥト:「天空の神」オシリス、イシス、セト、ネフティスの母
- オシリス:「生産の神」イシスの夫
- イシス:「豊穣の神」オシリスの妻
- セト:「砂漠の神」ネフティスの夫
- ネフティス:「死者の神」セトの妻
これらの神様は世界を創造する上で重要な神々であり、そして猫にも関係しています。古代エジプトでは猫は神格化され、女性の胴体に猫の頭を持った女神バステトが信仰されていました。このバステトはアトゥムの娘ともされているのです。
古代エジプトにおいて「9」は神聖な数字と考えられてきました。その「9」が猫の九つ命と結びついたのかもしれません。
キリスト教の三位一体の教え
キリスト教では「父」と「子(キリスト)」と「精霊」が一体であるとする教えがあります。これはキリスト教にとって非常に重要な教義です。キリスト教徒でなくても「三位一体」という言葉は聞いたことがあるでしょう。
この三位一体を3回繰り返す「9」は、とても神聖な数字と考えられていました。
例えばキリスト教では、天使には九つの階級があるとされています。またキリスト教以前の時代、旧約聖書時代、そしてキリスト教徒の時代から選んだ各3人ずつ、計9人の英雄を讃える「九偉人」もいます。
このように「9」は古代から神聖な数と考えられてきました。その「9」の数が、不死身にも見える猫の命の数になったのでしょう。
小説の中に見られる「猫の九つの命」
猫が九つの命を持っているという話は、昔から小説の中などにも出てきます。「猫は九つの命を持っている」という表現のある小説には、次のようなものがあります。
- 「猫にご用心」ウィリアム・ボールドウィン著(1561年)
- 「ロミオとジュリエット」シェイクスピア著
- 「陽だまりの彼女」越谷オサム著(2011年)
「陽だまりの彼女」は2013年に映画化もされたため、映画で見たという方もいるかもしれません。
まだ小説を読んだことがない、映画も見ていないという方に「猫には九つの命がある」という話を先にしてしてしまうとネタバレになってしまうかもしれませんが、とても感動的な話でしたので是非チェックしてみて下さい。
残念ながら、猫にも他の生き物と同じように一つの命しかありません。
(ただもしかすると、愛猫が違う毛色になって生まれ変わり、再び大好きだったあなたの目の前に現れている可能性も全くないとは言えませんね。)
あなたが愛猫と過ごせる時間は二度とはないのです。猫と共に過ごす今この瞬間を、大切にして下さい。
みんなのコメント
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野良猫は、複数の猫と交配するので、一般的には子猫の模様は、親兄弟であってもバラバラになりやすいという認識がある。
しかし、猫は多産なので狭い地域に同じような模様の子供が生まれる確率が高い。
近所で死んだ猫を見かけると、強く印象に残って記憶に残りやすい反面、細かいところまでは見ていないので、死んだ猫と同じような柄の猫を見ると、生き返ったのではないかと錯覚しやすいのではないかと思う。