眠る猫を見つめてみてください。手近なところに眠っている猫がいなかったら、脳内で眠る猫を思い起こしてください。丸くなっているでしょうか。それともゆったり四肢を投げ出しているでしょうか。ヘソ天もいいですね。
まず、おなかがゆっくり上下していますね。ラジオ体操ばりの完璧な腹式呼吸です。時折、おひげがぴくりと跳ねたり、お口がもぐもぐしたり、耳を一瞬伏せたりと、愛猫の寝姿というものはじつに見つめ甲斐があり、私たちを癒してくれます。
それにしても、どんな夢を見ているのでしょうか。
猫も人間のように夢を見ている!
猫は寝起きに「カリカリがたくさん降ってくる夢を見てたよ」などとは語ってくれませんが、眠っている最中に時折シャカシャカ足を動かしたり、ぐにゅぐにゅ寝言を呟いたりしていかにも夢を見ている様子なのは、飼い主さんにはお馴染みの光景ですよね。
事実、脳波を測定すると、人間のようにレム・ノンレム睡眠を繰り返し、確かに夢を見ているようです。
私たち人間の見る夢は、見たことの無いものという場合もありますが、大抵において昔の出来事だったり、目下悩んでいることだったりします。基本的に記憶から構築されていることが多く、そのために夢は記憶の整理と考えられています。
ですので、猫が眠りながら前足がシャカシャカしていれば、昨日来客にびっくりて逃げた時のことを思い出しているのかしら。お口が動いていれば、今日おやつを奮発したから楽しんでいるのかしら。
そう思ってしまいますが、猫の見る夢は私たち人間が想像するものとは少しばかり違うようです。
猫は夢の中でトレーニングしている
人間や猫などの哺乳類は脳の記憶領域が発達しているため、睡眠時は体とともに脳を休める必要があります。
入眠から熟睡へのプロセスとしては、ノンレム第一段階(軽く脳が休んでいる状態)からノンレム第二段階(深く脳が休んでいる状態)を経て、レム睡眠(脳はすっきりして、今度は体が本格的におやすみ中の状態)に至ります。
いわゆる「ごめん寝」待ち状態の猫を思い浮かべてください。うつらうつらとしていても首が持ち上がっているときはまだ体が制御されておりノンレム睡眠、首ががっくりと落ちて「ごめん寝」になった瞬間、レム睡眠に突入して猫は夢を見始めます。
1979年にフランスのリヨン大学で興味深くもちょっとかわいそうな実験が行われました。猫の脳幹の一部、大細胞網様核という骨格筋に指令を出す部位を破壊し、レム睡眠に突入しても脳の動きのままに猫が動けるようにしてみたのです。
すると猫は普段通りの動きでフードを食べる動作、獲物を襲う動作、何かに怯えて逃げたり威嚇する動作を行いました。その場にあったフードや生きたネズミには目もくれず、諸々の動作は夢の中に出てきているのであろう「見えない対象」に向けられていたそうです。
雄雌や個体の性質に関わらず、あらわれる行動はどの猫も一定のパターンを繰り返しており、睡眠時に空腹の状態にしたからといって捕食の動作が増えることも無かったため、人間のように記憶やコンディションをもとに夢を見ているわけではないと結論づけられました。
一度も狩りをしたことがなく、外敵に脅かされたこともない室内猫でも、いざ獲物を前にするときちんと狩猟本能を発揮できたり、背中を丸めて毛を膨らませる威嚇行動が取れます。
これは遺伝子に刷り込まれた情報を夢の中で繰り返しシミュレーションした結果と考えられており、まさに猫の睡眠学習です。
猫はよく眠る動物
ところで眠りと夢に関する実験には猫が多く使われています。他の動物に比べて個体差が少ないことと、何よりよく眠ることがその理由。成猫の睡眠時間は1日トータルで15時間前後、そのうち、夢を見ているレム睡眠は2~3時間ほどです。
これらの睡眠も人間のようにまとめて取るわけではなく、起きて活動してはまた寝ての繰り返しですので、一回の睡眠で訪れるレム睡眠は5分から7分ほど、猫は小さな夢をたくさん見ているのですね。
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人間は猫と違って記憶や心理状態をもとに様々な夢を見ます。自分の中からあらわれたものであるのに、自分で制御できないその不思議さから、心理学からスピリチュアルまで様々な方面から読み解きがなされてきました。
夢を深層心理からの無意識のメッセージと考えたとき、猫が夢に出てくるのはどんな意味をもつのでしょうか。
大まかに分けると夢に出てくる猫は
- 女性
- 不吉
- 幸福
を象徴するそうです。
「女性」は猫のあの愛らしさ、スタイルの良さ、目ヂカラ、そしてたまに垣間見えるあざとさ(そこがまたカワイイ)を思い浮かべると納得できますよね。
そんな猫系女子のイメージそのままに、夢に出てくる猫が意味する女性像は家庭的な良妻賢母というよりはむしろ、小悪魔的な愛人系のようです。
「不吉」は我々猫好きとしては聞き捨てならない話ですが、夜に活動的であること、足音を立てず密やかに忍び寄ることから泥棒や犯罪など、自分を陥れようとする何かをイメージさせ、人間の思惑通りに動かないことから思わぬトラブルや病気も象徴するようです。
「幸福」はもう納得というか全面肯定というか猫はそこにいてくれるだけでこちらが幸福というかなんというか。一般的な解釈としてはネズミを狩ることから財産を守る=金運アップといった連想や開運グッズの招き猫のイメージが強いようです。
夢解きというものはなかなかに複雑で、単純に黒猫の夢だから不吉!とは断定できません。その時々の自身の状況から推測して思い当たることに当てはめていくのが妥当と思われます。
例えば「大量の猫にまみれる=無意識に予測していたトラブルがそろそろおそってくる予感」だったり「猫を飼い始める=秘密を持とうとしている後ろめたさのあらわれ」といったところでしょうか。
ただし、これらの一般的解釈はあくまでも猫になじみの無い人が猫の夢を見た場合であり、猫飼いや猫好きが猫の夢を見たときはただもう無意識の中まで愛猫が詰まってる、もしくは無意識でも願うほど猫飼いたい、などの解釈が心理学的にも正しいでしょう。
猫と一緒の夢が見たい!
いかがでしたでしょうか。よく眠る猫を見るにつけ、私たちは平和な気持ちになったり「のんきでいいなあ」とうらやましく思ったりもします。しかし、あのすやすやとした寝顔の下、猫たちは脳内トレーニングを繰り返してプロの猫としての技術を研鑽していたのです。
ユング先生は集合的無意識でみんなつながっていると説かれました。そして人間の夢は無意識領域への入り口です。さあ、今すぐ眠っている愛猫の隣で寝そべってお昼寝を始めましょう。
無意識のひげ根を辿り、夢の中で一生懸命狩りを練習をする愛猫の姿を眺める夢がみられるかもしれません。