供血猫とドナー猫のお話。仲間に血を分けてあげるのがお仕事

事故に遭って大けがをした、あるいは病気のために手術をしなければならない、そんな時、治療や手術には輸血のための血液が必要です。

人間であれば、日本赤十字社の血液センターによって、安定的に血液を得られるしくみが出来ています。それが例えば猫などのペットだった場合はどのようにして必要な血液を得るのでしょうか。

そこには猫の医療を陰で支える「供血猫」(きょうけつねこ)の存在がありました。仲間を助けるために自分の血を分け与える、そんな彼らの暮らしぶりやお仕事の内容をご紹介します。

動物病院で暮らす犬や猫

かかりつけの動物病院で犬や猫が飼われているのをご覧になったことのある方も多いと思います。病院によっては受付の奥でのんびり構えて来院者をお迎えしていたりしますね。

看板犬や看板猫として病院のアイドル的な存在ともなる彼らですが、その実、かわいいだけが仕事じゃないこともあるんです。

そのお仕事とは「供血」。動物たちも手術の際、またはケガや病気で血が足りなくなっている場合には輸血が必要となります。そんな時、患畜に血を分けてあげるのが供血犬、供血猫のお仕事です。

動物病院では何らかの事情で飼い主が手放してしまった子、保護されたものの里親の見つからなかった子をやむなく引き取る場合があります。

例えば、おそらく日本で一番有名な供血猫であろうばた子ちゃん。「空から見ててね・いのちをすくう”供血猫”ばた子の物語」(はせがわまみ著・集英社みらい文庫)という本にもなった彼女は、トイレの粗相が多いからと安楽死を望んだ飼い主によって病院に持ち込まれました。

そういった様々な理由で病院で暮らしている子たちや病院のスタッフが個人的に飼っている子たちがいざという時、供血猫としてお仕事をします。

供血猫、という字面だけを見るとなんとも物々しい印象を受けます。血を抜かれるために飼われているなんてかわいそう、と思われた方もいるのではないでしょうか。しかし、そもそも供血するには健康が第一、多くの供血猫たちは病院やスタッフの自宅で大切に愛育されています。

とはいえ、病院で暮らす犬や猫のすべてが供血犬、供血猫としてお仕事をしているというわけではなく、その個体がドナー・レシピエント双方に安全に供血できる条件を満たしていた場合に限られます。

一般の飼い犬、飼い猫もその条件に適合して入れば供血ボランティアとなって他の動物を助けることもできますので、その条件については次項で詳しく述べますが、猫であれば1~7歳までの成猫で、かつ体重が4㎏以上の健康な猫が供血猫として適しています。

では供血犬や供血猫がいる動物病院ならいつでも確実に輸血が受けられるかといえば、そういうわけにもいかないんです。

猫にはA型・B型・AB型と3種類の血液型があります。日本の猫の9割以上がA型ですが、残る1割弱の殆どはB型で、ごく稀にAB型の猫がいます。

スコティッシュやヒマラヤン、ペルシャ、アビシニアン、バーミーズ、ソマリなど特定の猫種ではB型の割合が高くなります。ご自分の飼っている猫の血液型を知っておき、いざという時助け合えるような猫飼い仲間とお互いの猫の血液型について確認し合っておくといざという時に役立つかもしれません。

AB型の猫にはA型の血液で代用が出来ますが、B型の猫にはA型の猫の血液が使えません。また、同じ血液型であっても適合チェックで拒絶反応が見られればやはり輸血はできません。

そして一匹の供血猫が一度に供血できる量は体重の1%まで、ひとたび供血した後は1~2ヶ月のインターバルを設けて回復を待たなければなりません。輸血を必要とする猫が相次いだ場合にはどうしても血液が足りなくなってしまいます。

そしてそもそもすべての動物病院に供血猫が飼われているわけでもありません。そんな時には一般のお宅で飼われている供血ドナー猫たちの協力も必要となってきます。

どんな猫が供血ドナーになれるのか

例えばアメリカやスウェーデン、台湾などではペット用の血液バンクが確立されていますが、日本では安全性の保障の観点から法的な認可が難しく、一動物病院の枠を超えて供血を行うとりくみが難航しています。

そのため、病院で飼われている供血猫以外の血液確保の手段として、供血ドナーの猫を登録制で募集している病院もあります。

あらかじめ健康診断や血液検査を済ませ、供血ドナーとして登録された猫に、必要が生じた時に連絡を入れて来院してもらうというものです。冷蔵、冷凍保存設備を持っている病院ではストックのための献血という形で募集する場合もあります。

供血猫ドナーの条件は病院によって異なりますが、大まかなものとしては以下の通りです。

  • 1歳から7歳までの成猫
  • 体重が4㎏以上
  • 毎年混合ワクチンを接種している
  • 猫免疫不全ウイルス、猫白血病ウイルスが陰性
  • ノミ、ダニ等の皮膚疾患が無い
  • 交配予定のない雄、出産経験がなく、避妊手術の済んだ雌
  • 完全室内飼いであること
  • 今までに輸血を受けていないこと

つまり、供血に耐えられる体力があり、レシピエントに与える感染症のリスクが少ない猫が供血ドナーとして求められています。病院によっては「採血にあたり協力的でおとなしい」といった気性を重視するところもあります。

猫の供血(献血)の流れ

まずはテストのために4ccほど採血し、血液型判定とレシピエント猫との血漿内の同種異抗体を検査するクロスマッチテストを行って適合すれば供血が開始されます。

採血は首筋、あるいは前足を一部剃毛して行います。所要時間は10分から30分以内で、採血量は体重の1%(大体1匹の猫から40~50ml)程度とされ、体重1㎏あたり12mlを超えることはありません。基本的には麻酔は使用されませんが、猫の状態によっては鎮静剤を使用する場合もあります。

その後、採血量と同等量の補液点滴が施され、帰宅します。人間の献血でジュースやおやつがもらえるのと似ていますね。また、血液の生産を促すために鉄剤が処方されることもあるようです。

供血猫になるリスクはないの?

供血することで猫の体に本当にリスクはないのでしょうか。

獣医さんに尋ねてみたところ「猫の体に針を刺す以上、絶対に安全だなんてことはない」「検査採血でも強いストレスを感じてショック状態になる子だっていないとも限らないという極端な例も可能性のひとつとして考えると絶対という言葉は医師として使えない」という非常に慎重な回答を頂きました。

つまりは日ごろ病院で検査を受ける時のような採血時のストレスがリスクといえばリスク、という事のようです。採血に用いる針や道具は人間の採血と同じように一回ごとに新しいものを使うため、感染症のリスクはありません。

供血に際して血液検査や健康診断をしてもらえるということはドナー側の猫にとってもメリットと言えるかもしれません。病院によってはワクチンの割引サービスやおやつなどの特典をつけているところもあります。

誰かのために、うちの子のために

だれでも「うちの子」に何か起きない限り、輸血の事はなかなか意識にのぼってこない問題です。しかし、どんな猫も一生涯に渡り絶対に輸血を受けずに済む、という保証はどこにもないのです。

輸血を必要とするどこかの誰かの大切な猫のために、めぐりめぐって「うちの子」のために。供血ドナーという方法があること、また仲間を助けるために自分の血を提供している猫がいることを覚えておいて頂けたらいいなと思います。

みんなのコメント

  • はなこ より:

    うちの子も供血出来る様にしっかり管理してます。
    私も、定期的に献血してます。
    仕事柄、麻酔をかけてうちの子の血液を取るときは色々葛藤があります。
    でも、命をつなげられるなら
    元気に帰ってまた来てくれる子達の為に。
    家族にとっては大事な子たちです。

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