猫もヒトも要注意!寄生虫症ジアルジアに感染しないために大事なこと

海外では寄生虫や病原菌を避けるために生水や生食を避けるべき、とは誰しも耳にした事があるのではないでしょうか。

それに比べて日本は衛生環境も良く、水や食品は世界でもトップクラスの安全性を誇ると言われていますが、それでもまだ、国内各地でひっそりと各種の寄生虫たちは生き続けています。

今回ご紹介するのは、そんな寄生虫のひとつが引き起こす病気、ジアルジア。人だけでなく犬や猫にも感染する病気で、無自覚のまま感染している場合も少なくありません。予防するためにも、どんな病気か知っておく必要があります。

ジアルジアはこんな病気

ランブル鞭毛虫(Giardia lamblia.)が哺乳類の消化管内に寄生することで引き起こされる病気で、人間や猫など哺乳類のみならず、鳥類や爬虫類、およそ脊椎を持つ動物なら何でも罹患する可能性のある人獣共通感染症です。

この虫は、その名の通り体から生えた8本の鞭毛を使って活動する原生生物の一種で普段は殻に防御されたシストと呼ばれる休眠状態となって自然界の水や土壌、寄生された生き物が排泄する糞便など様々なところに潜んでいます。

シストは楕円形をしていますが、そのサイズは一番長い部分で大きなものでも0.012mmほど。とても目には見えない極小サイズのため、気づかれないまま水や食べ物に紛れて宿主の体内に侵入していきます。

そうしてまんまと猫の体内に入ったシストは腸内にたどり着くと休眠状態を解き、吸盤を使って十二指腸や小腸の内壁に張り付いて増殖を始めます。

ランブル鞭毛虫として増殖する栄養型と、更にシストを形成する耐久型に分かれ、作り出されたシストは更なる宿主を求めて便と共に外界に旅立っていくのです。

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ジアルジア症に感染すると猫に起こる症状

主な症状としては一週間から10日の潜伏期間を経て急性、慢性の下痢や胃腸炎が引き起こされ、それに伴って腹痛や吐き気を催します。

下痢の次第は軟便から水便と様々。血便や悪臭を伴う脂肪便が出ることもありますが、何の症状もあらわれず無自覚なままという場合も少なくありません。

それでも腸内にランブルたちが寄生していることで消化や吸収が阻害され、栄養失調を起こしたり、慢性化すると寄生範囲は小腸から胆管や胆嚢へと拡大していき、胆管炎や胆嚢障害に繋がる場合もあります。

大人の猫は無症状であったり、一時的な軟便、ごく軽い下痢で済んだとしても、それが一歳未満の子猫の場合には下痢による脱水症状や食欲不振による栄養失調などの副次的な症状が致命的になるために注意が必要です。

人間でも幼い子供や病気で免疫力が低下している人の場合では症状が重篤化、慢性化する恐れがあります。即刻命にかかわるような病気ではありませんが、決して油断はできません。

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ジアルジアの主な治療法

ジアルジアでは腹痛、下痢、嘔吐、食欲不振、それが続くことにより関連する臓器に負担がかかります。まずは脱水や栄養失調を解消するために輸液などの対症療法を行い、併せてフラジールなどの抗原虫薬による投薬治療が施されます。

ただし、ノミなどにも言える事ですが、卵には薬は効果がありません。しぶといシストや残った卵がすべて孵化して死滅させられるまで、数週間から数ヶ月をかけて根気よく投薬を繰り返していくことになります。

また、フラジールの主成分であるメトロニダゾールは微量であっても胎児や母乳を通じて乳児に影響を及ぼすため、妊娠中や授乳中の母猫には使用できないという難点があります。

ジアルジアの感染を防ぐためにできること

ジアルジアは根源であるシストを猫が口にすることで感染します。このシストはランブル鞭毛虫のシェルター的な存在になっているんですね。

  • 水中でも3ヶ月以上生き延びる
  • -20℃の世界でも10時間は生きられる
  • 塩素処理にもある程度耐えられる

その耐久性にはめざましいものがあります。ランブル鞭毛虫のシストは冷たくて湿ったところが大好き、ここを逆手にとって駆除していきましょう。ポイントは加熱です。

生食や生水を避ける

先述の通り、シストは塩素に対する耐性が高く、過去には水道水を経由した集団感染の事例も起きています。古い集合住宅の場合は給水タンク自体にシストが住み着いている可能性もゼロではありません。

猫にあげる水は水道水を一度沸かした湯冷ましや、1um(0.001mm)以上の不純物を除去できる浄水器を通した水を使うと尚一層安心です。ミネラルウォーターを使う際にはマグネシウムの過剰摂取を避けるために、必ず軟水を選んでください。

▼日本の水道水は基本的には安全ですが、やはり一部の老朽化した配水管から出る水は心配です
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お刺身の好きな猫も多いのですが、シスト以外の寄生虫や雑菌のリスクを避けるためにも生肉、生魚をそのまま与えることは控えた方が良いでしょう。

▼生の魚を猫に与える場合には、アニサキスの危険性もありますからね
猫に刺身は与えても良い?マグロ、サーモンなど食材ごとの安全性

猫トイレを清潔に保つ

シストは便と共に排泄されます。食糞とまではいかなくとも、たとえば感染猫の便を他の猫が踏んだり触ったり、その前足、後ろ足で毛づくろいを行えば口にはいってしまう可能性は充分にあります。

猫が排便したら速やかに処理し、トイレ自体も定期的に洗浄することで、シストの温床にしないことが大切です。シストは60℃以上の熱湯に5分以上晒しておくことで死滅させられます。

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熱湯シャワーは飛び散るおそれがありますので、内部に熱湯を注いでしばらく浸け置いておくのがおすすめですが、浸け置いている間に温度が冷めていくことを考えると、注ぐときの温度は70℃以上が良いでしょう。

糞の始末やトイレの掃除で飼い主の手に着く事もありますので、事後にしっかりと石鹸で手を洗う事もお忘れなく。

動物病院で検査を受ける

知らず識らずのうちに寄生されて、無自覚のままに感染を拡大させてしまう事の無いように、希望に応じて動物病院ではジアルジアの検査が受けられます。

ランブル鞭毛虫として活動している栄養型は、猫の便を顕微鏡で覗くとその特徴的な姿が発見できますが、シストを形成している耐久型はそれだけでは発見が難しいため、便中の抗原に反応する専用の検査キットが併せて使用されます。

新しくお迎えした猫は出自がペットショップ、野良を問わずにまずは検査を受けましょう。ペットショップはたくさんの動物が一ヶ所で暮らしているため、キャリアを作りやすい環境でもあります。

また、シストは水たまり、生の獲物、落ちていた糞など、外を歩いている猫が気になってしまうようなところには大抵存在しています。そのため、完全室内飼いの猫よりも外と出入り自由な猫、脱走してしばらく外にいた猫は特に要注意です。

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症状の軽さ=感染力の高さ

ジアルジアの症状は健康な成猫であればそれ自体で命に関わるというほどのものではありませんが、症状が軽いというのはそれだけ宿主が活発に活動できる、あるいは無自覚のまま行動範囲を広げてしまう事を意味します。症状の軽さは感染力の強さに比例するのです。

厚生労働省が感染力の強さや症状の危険性を1~5類の5段階に分けた区分において、ジアルジアは「近年の発生率は低下傾向にあるものの、動向に注意するために発生したら報告しましょう」という5類感染症に属しています。

戦後は5%を超えていた人間への感染率も、インフラの整備や衛生環境の向上によって今や0.5%となりました。しかし、国内での発症例が少なくとも、海外で生水や生の食べ物を口にして感染した人が帰国してから発症する例もあり、海を越えて人や物が移動している限り、油断はできません。

近年でも、下痢の症状のある子猫のおよそ10%から検出されているというデータもあります。飼い主と猫、お互いが健やかに暮らすためにも予防や感染拡大の阻止に努めていきましょう。

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