寒い冬の日や春のおだやかな陽気の日、猫が目を閉じて日向ぼっこをする姿を見るといかにも気持ちよさそうですよね。きっと本人も気持ちいいんだと思います。見ている人間からすると、うらやましく思ったりもします。
実は猫の日向ぼっこ、「気持ちいい」という理由だけではないんです。また、日向ぼっこをしているときに猫のお腹をそっと枕にすると、猫の身体からほんのり甘く、なんともいえない良い匂いが漂ってくるんです。
猫の日向ぼっこを邪魔しちゃいけない、きちんと理由のある猫の日向ぼっこの不思議に迫ります。
猫の気持ちよさそうな日向ぼっこのふか~い意味
猫の日向ぼっこは、一見すると「気持ち良いんだろうなぁ」というだけで、あまり深読みする必要はないように思われますが、よく考えてみると、意外と深い理由が隠されているフシがあります。
警戒心が強い猫でも日向ぼっこでへそ天なんてしていると、ほんとに深い意味なんてあるのかよと勘繰りたくもなりますが、あの幸せそうでマヌケ(猫ごめん!)な表情にだまされてはいけません。
体温調節のために日向ぼっこが必要
猫はヒトのように汗をかくことがありません。あったとしても鼻や肉球などわずかな面積からほんの微量の汗しか分泌されません。また、犬のように「はっはっはっ・・・」というパンチング(はやい呼吸)もしません。
犬のパンチングは体温調節のために行われることはよく知られますね。人間の汗とまったく同じです。とすると、汗もかかずパンチングもしない猫は、体温調節がニガテな動物であると考えられます。
夏の暑さには強そうに見えても猫の熱中症による事故が意外と多いのは、体温調節がニガテであることが主な理由です。もう1つの理由には「ガマンしがちな動物」という要素も当てはまりますが。
いずれにしても、猫がニガテな体温調節を思うように行えないということは、夏の熱中症ばかりでなく、冬の寒い日にも体温をうまく上昇させることができない危険にもさらされることを意味します。
つまり日向ぼっこは、おひさまの光を身体に当てることによって、そのエネルギーである「熱」も一緒に猫の体内に取り込もうとしている可能性が高いと考えられているんです。
日向ぼっこでマヌケな顔になってしまうのはやむを得ない部分もあると思いますが、顔の事情はともかく、理科を学習しているわけでもない猫の体温調節の本能というのはすごいな、と思います。
なお、猫が必要に迫られて起こす行動を「猫の習性」と呼びます。日向ぼっこは猫の代表的な習性の1つです。トイレのあと砂で埋めたり、のどをゴロゴロ鳴らしたりするのと同じ、猫の習性です。
ちなみに、体温が思うように上昇しないと、猫も人間と同じように「低体温症」を起こします。活発な若い猫ならそうそう起こる症状ではありません。動くことをいとわず、暖かいところに自分から移動しますので。
しかし免疫力が低く行動範囲が広くない高齢猫や子猫は、できるときにしっかりと日向ぼっこをしないと、低体温症の危険性が若い猫よりも多少高まると考える必要があります。
もちろんわざわざ日向ぼっこをしなくても、こたつやホットカーペット、ストーブやエアコンなどで暖をとることができる環境であれば、低体温症の危険は去ります。
ところが日向ぼっこの効果は、低体温症の予防だけではないんです。もちろん「気持ちいい」以外の理由ですよ。
体表の殺菌のために日向ぼっこしている
個体差はありますが、一般に猫は水が嫌いな動物です。普段外でおしっこを済ませる猫も、雨が降るとなかなか外に出ようとしなくなります。とにかく足や身体が水にぬれることを嫌うのも猫の習性の1つでしょう。
ヒトに猫と同じレベルで水を嫌う習性があるとすると、これは大ピンチになるでしょう。お風呂に入ることができないからです。濡れた地面にはまるではれ物にでも触るように歩く猫にとって、お風呂は無条件NGです。
ヒトは毎日の入浴のおかげで身体の清潔を保つことができます。お風呂という概念がそもそもなかった時代、あるいは現代でも入浴の習慣がない国や地域では、海や川に身体をひたして入浴の代わりとしますね。
しかし水が嫌いな猫には、お風呂に入ることはおろか、海や川に身体をひたすことも極めて困難であることが多いんです。まあ子猫の時分から飼い主さんと一緒にお風呂に入る習慣があるなど特殊なケースもありますが。
水を嫌う猫にとって、身体を洗うことができないデメリットをどう解消するのか・・・これが猫の清潔を保つためのひとつの大きなポイントになります。実は、日向ぼっこがこの問題をクリアするのです。
日向ぼっこはもちろん太陽光を身体に浴びる行為です。太陽光とはすなわち「紫外線」です。ヒトのように体毛が覆っていない部分に直接紫外線を当てるのは危険ですが、猫には体毛があります。
紫外線は非常に強いエネルギーを持つため、照射した部分には殺菌効果が期待されます。とすると、身体を洗うことができない猫にとって、日向ぼっこは「入浴」の代替行為になるのではないか・・・の憶測は成り立ちます。
冒頭でも触れましたが、日向ぼっこのあとの猫の匂い、とても良い匂いがしますね。一般に、「獣」は悪臭が強いとされます。犬だってお世辞にも良い匂いとは言えません。しかし猫はなぜか「良い匂い」がします。
日向ぼっこのあとのあのなんともいえない匂いの理由も、実は紫外線による殺菌効果の証拠なんです。ところであの甘いような懐かしいような不思議な匂い、どこかで感じたことがありませんか?
そうです!あれは天日干しにした布団の匂いに似ていますね。若干猫の匂いのほうがほのかで優しい匂いという気もしますが、非常によく似ています。布団を干すのも殺菌が理由でしたが・・・
日向ぼっこ後の猫の匂いにしても天日干しした布団の匂いにしても、「太陽の匂い」などと呼ばれることもありますが、実はあれ、紫外線によって汗、皮脂、細菌などが分解されたときに発せられる匂いなんです。
汗や皮脂のにおいというと、「匂い」と書くのもはばかられるくらいイヤぁなイメージがありますが、分解されてしまうと、むしろ芳香に近い「良い匂い」を発するんですね。これは猫もヒトの布団も同じこと。
飼い主にとって飼い猫の匂いが特に良いと感じられるのは、猫は飼い主の匂いを自分に付着させる習性があるため、飼い主自身、さらには「家の匂い」が太陽光に分解され、普段から感じている匂いだからです。
いつも自分が暮らす空間の雰囲気というか匂いというか、そういうものが安らぎとして感じられるのは、猫も人間も同じです。動物の本能的な部分なのかもしれませんね。
ということで、これが日向ぼっこ後の猫の良い匂いの秘密だったんですねぇ。近年ではおでこ、お腹、肉球など部位別の猫の匂いが分析され、その匂い成分を配合した化粧品が女性に大人気なんだとか。
まあ猫本人は知ったこっちゃないんでしょうが、猫ブームとはいえおもしろい時代になったものです。とはいえ、猫が体毛を殺菌することで皮膚病予防になる意味は、猫にとって非常に重要なことですね。
ちなみに筆者宅の猫は大柄なので、良い匂いはたくさん発散してくれます。はじめは香水の原料となる匂いを発するジャコウネコ(麝香猫・霊猫香)か!?と思ったほどでした(笑)
- 我が家のにゃんこエピソード~頭をガブリ!
- 筆者もご多分に漏れず、日向ぼっこ後の猫の匂いは大好き。特にお腹の匂いは日向ぼっこなしでもとても良い匂いがします。しかもお腹はホワホワのふにゃふにゃで気持ちいい。
起きているときに無理やり顔をくっつけると断固拒否されるため、眠っているときにそーっと猫のお腹を枕にしてみると、いい香りがするわやわらかくて気持ちいいわでとても良い気分です。
が、そんなシアワセな時間も長くは続きません、ウチの猫の場合。どうやら半分迷惑なのと半分遊んでほしいのとがまじりあって、筆者の頭にガブっと噛みついてくるのです・・・
いてぇなお前何すんだよ!と猫の顔を軽くわしづかみにすると、もうそこからはバトル(お遊びタイム)勃発。筆者の両手は猫の歯型と爪先による白い線でいっぱいになってしまうのでした。
まあほとんど日課のようなものなんですけどね。
猫の日向ぼっことビタミン合成の関係
人間は、日光浴によってビタミンDを合成する機能が発達しています。ビタミンDは骨の異常を予防するための重要な栄養素です。とすると、猫が日向ぼっこすることもビタミンDをつくる上で重要なのではないか・・・
の仮説は容易に成り立ちますね。動物病院のサイトにも「日向ぼっこでビタミンDをつくる」と書かれていることが多いです。しかし実は、猫の日向ぼっこによるビタミンD合成能力にははなはだ疑わしい部分があるんです。
人間の場合、皮下にある「7-デヒドロコレステロール」と呼ばれる脂質が作用して、太陽光が当たるとビタミンDがつくられます。ところが猫の場合、そういうわけにいかない事情があります。
猫の皮下には7-デヒドロコレステロールがほんの微量しかないからです。とすると、いくら日向ぼっこが好きで日光(紫外線)を当てても、猫には残念ながらビタミンDはほぼつくられないんです。
ということで、猫の日向ぼっことビタミンD合成の関係は希薄であると結論づけなければならない可能性が高いです。動物病院サイトで「できる!」と書かれていることもあるのであくまでも「可能性」ですが。
しかし猫にとってビタミンDが不要かというと、それもまた違います。ビタミンD不足によって猫の健康が害される危険性は十分すぎるほどあります。ではどうすればいいの?ということになりますね。
結論を言えば、ビタミンDを配合したキャットフードを食べさせることが非常に重要ですよ!となります。しかしご心配なく。キャットフードをつくっている会社はヌカリがありません。
実は近年流通しているキャットフードのほとんどに、ビタミンDがちゃんと配合されているんですねぇ。日向ぼっこしてもビタミンDが合成されないことを知っているのかどうかはわかりませんが。
しかしすべてのキャットフードを精査したわけではないので、製品の外袋や缶に記載された成分表示を確認していただければ安心ですね。筆者が見たキャットフードすべてにちゃんと「ビタミンD」の記載がありました。
人間が食べる魚介類の多くにもビタミンDが含まれているので、お魚が好きな猫にとってはこれも幸運ですね。ただし、塩分や生の魚介類に含まれる成分は猫の健康を害する危険もあります。
人間用の魚介類を猫に与えるときは、塩分を抜き、必ず加熱調理したものを与えるようにしてくださいね!
(参考:ビタミンD-くすのき動物病院 より)
猫の日向ぼっこの邪魔はしないであげて!
はい。今回は猫好き人間にとっても非常に興味深い「猫が日向ぼっこを好きな理由と必要性」というテーマでお話してきました。単に気持ちいいからというのはもちろんですが、それだけではありませんでしたね。
猫自身の身体的、精神的な健康を推進する意味でも、猫の日向ぼっこは十分させてあげる必要があるとご理解いただけたかと思います。ただし、高齢猫のように行動範囲が小さくなっている猫の日向ぼっこは要注意。
性格的にもめんどくさくなっていると、そんなに寒い時期でもないのに長時間日向ぼっこをしたがために熱中症にかかってしまった・・・などという事例もいくつか紹介されています。
若い猫であれば過度の心配は不要かと思いますが、いちおう最後に付け加えておきますね。気持ちよさそうにしているとついついちょっかいを出したくなってしまいますが、日向ぼっこには重要な意味があります。
猫が満足するまで邪魔せず日向ぼっこをさせてあげましょうね!