皆さまは御朱印、集めてますか?
御朱印はお寺にお経を納めた願意の証、もしくは神社に参拝した証として専用の朱印帳に押印や筆書きを頂く宗教行為ですが、昨今その美しさやバリエーションの豊かさが人気を集め、御朱印拝授を目的とした旅行ツアーが組まれたり、ビジュアルブックが刊行されるなど一大ブームとなっています。
従来は墨書きのご本尊名や神社名に朱印が押される伝統的なスタイルでしたが、ブームによってカラフルな色遣いやイラストなどでカジュアルなモチーフを取り入れた御朱印を出す寺社が増え、独自の進化を続けています。
そんな数ある御朱印の中でも猫モチーフが可愛い御朱印をご紹介します。
猫の御朱印がかわいいお寺や神社
御朱印を紹介する上で大切な事なので、まずは注意事項から失礼します。
御朱印は時期や書き手によって内容が変更になる場合もあります。また、いつでも受けられるわけではなく、日時が決まっている場合も少なくありません。
殆どの寺社は御朱印についての個別の問い合わせを自粛してほしいと呼び掛けていますので、公式のサイトやSNSを熟読してお目当ての御朱印の拝受方法を確認されることをお勧めいたします。
それでは猫御朱印の旅へ参りましょう!
御誕生寺(ごたんじょうじ)
【福井県越前市庄田町32】
釈迦如来をご本尊に祀る曹洞宗のお寺です。平成14年の建立以来、保護してきた猫たち数十匹がずらりと並んでごはんを食べる姿がテレビなどでも取り上げられ、すっかり猫寺として有名になりました。
現在猫の引き取りはしていませんが、保護した猫の治療や避妊去勢、動物愛護センターと連携しての譲渡会を行っています。
そんな御誕生寺の御朱印はやっぱり猫。猫の尻尾のような伸びやかな揮毫に丸まった猫の押印がキュートです。平成30年からは寺猫の中でも人気の高い6匹をキャラクター化した見開き御朱印も頂けるようになりました。
保護猫の活動費として1000円以上を寄付すると返礼品として猫の御朱印帳が頂けます。記帳の無い朱印帳のみなら郵送でもお頒かち頂けるので遠方に住む人にも嬉しいですね。
常保寺(じょうほうじ)
【東京都青梅市滝ノ上町1316】
釈迦如来をご本尊に祀る臨済宗のお寺で、境内には猫地蔵が安置されています。こちらは昭和中期に廃寺が決まったお寺からの勧請で、古くから青梅では養蚕が盛んだったためにネズミに悩まされることも多く、猫信仰があったためと考えられています。
頂ける猫の御朱印はご本尊の記号に猫地蔵が押印されたもの、猫地蔵のみが押印されたもの、金猫・黒猫それぞれのシルエット印で合計4種類。平成30年秋からは猫地蔵御朱印帳も授与されます。
所蔵の大涅槃図には仏陀の入滅に際し集まった動物の中に本来涅槃図には描かれることのない猫が描かれているそうです。デジタルでも公開されていますので、じっくり探してみては如何でしょうか。
福良天満宮/招霊赤猫社(ふくらてんまんぐう/おがたまあかねこしゃ)
【大分県臼杵市福良211】
学問の神様で知られる菅原道真公をお祀りする福良天満宮の境内に末社として鎮座しているのが招霊赤猫社です。
江戸から明治にかけて商業で栄えた臼杵市では、質素倹約を旨として勤勉な反面、抜け目なく頑固な商人気質を揶揄して赤猫根性と呼ぶ事があり、当時活躍した大商人の大塚幸兵衛がそれに因んで「あかねこ」と呼ばれていたのが社名の由来です。
平成11年に創建された赤猫社では臼杵商人たちの御霊と彼らが信仰していた稲荷神社の御札がお祀りされており、ご祭神は猫ではありませんが、名前に因んだ赤い猫の置物が縁起物として尊ばれています。
天満宮、赤猫社いずれの御朱印にも福々しい赤猫の印が押されています。鳥居に向かって飛ぶ猫のシルエットと巫女スタイルの赤猫が刺繍された限定御朱印帳もあります。
洞雲寺(とううんじ)
【愛知県常滑市井戸田町2-37】
阿弥陀如来をご本尊に祀る西山浄土宗のお寺です。知多における西国や四国の写し霊場であることから弘法大師と縁が深く、平成22年には招き猫の産地として名高い常滑市ならではの寧護(ねこ)大師が安置されました。
お遍路参りをする人は弘法大師と共にあるという意味の同行二人の文字を笠などに書きつけますが、ねこ大師はそれを体現して片面が弘法大師、もう片面がお詣りする私たちを模した両面像です。こちらのお寺では通常の札所の御朱印3種類の他にねこ大師のお姿が押印された猫御朱印が頂けます。
下野大師(しもつけだいし)
【栃木県下野市下古山928-1】
大日如来をご本尊に祀る真言宗のお寺です。猫を仏教経典の守り神とする考えから境内にはお寺が飼っている猫と触れ合えるにゃんにゃん堂があり、その前に小さなお社を設けて猫神さまを祀っています。
平成30年から猫神御朱印が始まりました。猫のシルエットと大きな肉球がダイナミックに押されたデザインが魅力的です。
遠野郷八幡宮/猫神社/(とおのごうはちまんぐう/ねこじんじゃ)
【岩手県遠野市松崎町白岩23-19】
遠野物語の舞台に鎮座する遠野郷八幡神社の境内地に末社として近年創建されたのが猫神社です。
もともとこの神社では4匹の猫が飼われており、参拝者の癒しとなっていました。そこに迷い込んできたのが5匹目の猫となるオトラです。神饌の魚を盗み食いしたり他の猫たちに追い払われたりしていましたが、以前に飼われていた猫と毛色が似ていたために飼い猫として迎えられました。
正式に社務猫となってからは日々神職と共に参拝を欠かさず、参拝者の先導を務めるなど敬神生活を送っていましたが、ある晩八幡山に姿を消しました。その遺徳を忍んで平成25年に猫神社が創建され、以来多くの猫好きが全国から訪れています。
そんな猫神社の御朱印には奉納されたオトラサマの絵を元に彫られた版が使用されており、生前の美猫ぶりを窺い知ることができます。
雲林寺(うんりんじ)
【山口県萩市大字吉部上2489】
臨済宗南禅寺派のお寺です。西へ25kmほど離れた萩城跡近くの天樹院(現在は廃寺)には萩藩初代藩主毛利輝元、同夫人、家臣長井元房のお墓があります。長井元房は主君に殉死しましたが遺された彼の飼い猫はその墓前を離れず、49日目に舌を噛んで自死したという忠義の猫の伝承が残されています。
雲林寺はその末寺であることから猫の寺として知られ、威厳に満ちた猫仏様や招き猫、見ざる言わざる聞かざるの猫バージョンなど猫モチーフであふれた人気のスポットとなっています。
こちらでは宝珠を肉球に見立てた朱印にイラストの猫があしらわれた有難くもキュートな御朱印や猫柄の御朱印帳が頂けます。
忠猫神社(ちゅうびょうじんじゃ)
【秋田県横手市平鹿町浅舞蒋沼135-4】
この地には明治の頃、伊勢多右衛門という篤志家がいました。村人のため私財を投じて米を蓄え、公園を作ろうとしましたが、野ねずみが増えて米や樹木、堤に至るまでを食い荒らしたために難航してしまいます。すると多右衛門の飼い猫がネズミ退治に乗り出し、13年の生涯をかけて駆除し続けました。
その働きを顕彰すべく完成した公園内には忠猫の碑が建てられましたが、永い年月の間に忘れ去られてしまっていました。平成28年、このまま風化させるには忍びないと地元有志がクラウドファンディングで資金を募り、公園近くの空き店舗を利用して設立したのが忠猫の碑を祀る忠猫神社(忠猫の館)です。
翌年からは御朱印も始まり、丸の中に稲穂と猫の意匠を組み込んだ印と硬派な揮毫のコントラストが美しい御朱印が頂けます。
龍岳院(りゅうがくいん)
【愛知県新城市庭野字植田21-1】
聖観音をご本尊に祀る曹洞宗のお寺です。動物好きのご住職は犬3頭・猫3匹を飼われていますがそのうちの1匹、茶トラのリオくんはあの福井の猫寺、御誕生寺から貰われてきました。
そういったご縁から、500円以上の初穂料を納めると全額が御誕生寺の猫たちのために寄付される猫募金御朱印が授与されています。
また、こちらのお寺ではペット専用の各種御祈願も行っていて、ルールを守った上であればペット同伴の参詣も歓迎されています。飼い主にとって嬉しいのが全国でも珍しいペット用の御朱印。猫の飼い主には肉球と猫の押印に愛猫の名前を入れて頂けます。
王子神社/お松大権現(おうじじんじゃ/おまつだいごんげん)
【王子神社:徳島県徳島市八万町向寺山55】
【お松大権現:徳島県阿南市加茂町不ケ63】
王子神社と、その20kmほど北に位置するお松大権現、両社はまったく別のお社ですがご一緒に紹介いたします。
元禄のころ、不作の年を乗り切るために土地を担保にお金を借りた庄屋が、だまされて土地もお金も奪われてしまいます。渦中、夫が亡くなり、遺された妻お松は訴えを起こしますが、奉行が賄賂を受け取っていたために敗訴、思い詰めて直訴に及んだことで死罪を言い渡されます。
お松の遺恨を晴らすべく飼い猫のお玉が金貸しと奉行に祟りを起こし、両家は没落の途を辿りました。これが有名な阿波の化け猫騒動ですが、お松とお玉のお墓を祀るのがお松大権現で、王子神社の中には祟りを恐れた奉行の一族が慰霊を図って建てた祠があります。
どちらも本懐を遂げたお松とお玉にあやかって勝負や受験に強い猫神さまとして慕われています。いずれのお社の御朱印も揮毫と押印の伝統スタイルながら、王子神社には社名印にさりげなく猫が乗っかり、その下には破魔矢を担いだ猫が歩いています。
お松大権現は丸いコミカルな猫が押印されていますが、こちらは只の意匠ではなくれっきとした神紋で、猫の香箱座りを模しています。
広がる猫神さま信仰
厳かなものあり、とにかくカワイイものあり。全国を見渡せば、ここでご紹介した以外にもまだまだたくさんの猫の御朱印があります。猫の御朱印帳を携えて、片っ端から集めて回りたくなりますね!
厳密に言えば、仏教には猫について信仰上の明確な定義はありませんし、神社神道も同様に猫の入る余地がありません。しかし養蚕や農業、船の守り神として、またはその生き様に敬意を表して、全国に猫を祀る寺社はたくさんあります。
心動かされたものを祀り、大切にする日本人のおおらかな宗教観から自然発生したこの猫信仰。猫の御朱印を授与している寺社は平成になってから作られたものも多く、猫神さまは御朱印によって更に広まっていくことでしょう。