「世田谷線でめぐる小さな猫旅」特集、全4回の第4回。
東急世田谷線の西太子堂駅から歩いて2分。4匹の店員猫がいる猫本だらけの本屋さん「Cat’s Meow Books キャッツミャウブックス」の店主・安村正也さんにお話をうかがいました。
本を買うことでできる小さな猫助け、あなたも始めてみませんか?
第1回:世田谷線の招き猫電車
第2回:豪徳寺と招き猫
第3回:招き猫スイーツ&グッズのお店
第4回:店員猫がいる猫本だらけの本屋さん
猫本専門書店、キャッツミャウブックスへ行こう
世田谷線に乗って西太子堂駅へ。駅前の酒屋さんの前の細い路地を奥まで進んでいくと、住宅街のなかに突然、青い看板が目印の「Cat’s Meow Books キャッツミャウブックス」(以下、「キャッツミャウブックス」と表記)が現われます。
(三軒茶屋駅からだと歩いて10分ほど。世田谷通りを西へ進み、ペットのコジマとモスバーガーのあいだの小道を道なりに歩いて、西太子堂駅前の酒屋の手前の路地に入る)
キャッツミャウブックスは猫カフェではありません。店員猫がいる猫本専門書店です。
2017年8月8日、世界ネコの日にオープンしました。
オープンに先駆けて、その年の5月、改装費の一部を支援してもらうため、クラウドファンディングを開始。
「猫のいる、猫本だらけの本屋をつくって、幸せになる猫を少しでも増やしたい!」というコンセプトに、多くの猫好きや本好きたちが賛同し、またたく間に目標額をクリア。
わたしも支援者のひとりとなり、リターン(特典)として、猫本屋を体験できる権利を獲得。好きな新刊本を10冊選び、「猫にゃん文庫」と名付けて、オープンから2カ月間、お店の棚に並べていただきました。
店は表側が新刊本ゾーンで、格子戸を挟んで奥側が古本ゾーン。
4匹の店員猫たちは古本ゾーンにいます(店員猫の気分次第なので、いつも全員いるとはかぎらない)。
書棚は縦横無尽に自由に歩きまわれるように、仕切り板に大きな穴が開いており、天井には1階の店舗と2階の自宅をつなぐ開口部が設けられています。
古本ゾーンでは、店員猫たちに癒やされつつ、生ビールやコーヒーを飲みながら、ゆっくり本を選ぶことができます。なんという幸せな空間!
本だけでなく、猫のジャケットのCDも置いています。
写真右の緑のジャケットは、正統派ボサノヴァ・デュオnaomi & goroの『passagem』。
レジ前にはさまざまな猫雑貨も並んでいます。なかには、人間用のまたたびも!
パッケージもかわいいビール「水曜日のネコ」。毎週水曜日は50円引きになります。
本を買い、ビールを飲んで、猫助け
店主の安村正也さんは現在49歳。かつて、「人生このままでいいのかな」というモヤモヤとした思いを抱え、これから先どう生きていくべきか、自問自答の日々を過ごしていたといいます。
会社を途中でやめるにしても、定年まで働くにしても、老後もなんらかの仕事を続けて社会と関わっていきたい。そう考えたときに、自然と頭に浮かんだのが「本屋になる」ことでした。
しかし、町の本屋が生き残っていくのは厳しい時代。ほかとは違う、なにか付加価値をつけなくては。
そこで思いついたのが「本×ビール×猫」という安村さんが好きなものを3つ掛け合わせたこの形態。
これなら自分も好きなものに囲まれてやっていけるし、そういうお店に来たいというお客さんもたくさんいるだろうと見込んだのです。
キャッツミャウブックスでは、新刊本、古本、雑貨、ドリンクなど、すべての売り上げの10%を、猫の保護活動をしている団体に寄付しています。
つまり、わたしたち客は、本を買ったり、ビールを飲んだりするだけで、間接的に猫助けをすることができるのです。
猫をきっかけに紙の本を買ってもらい、そして、それによって猫が助けられる。本屋と猫がお互いに助け合って存在していく。
それが、キャッツミャウブックスが猫好きからも本好きからも支持されている大きな理由です。
とはいえ、本屋だけでやっていくのは難しいのが現状。そこで、安村さんは会社員を続けながら本屋をやっていくという「パラレルキャリア」の道を選択しました。
安村さんが会社に行っている平日の昼間は、妻の真澄さんがお店を切り盛りしています。
奥の古本ゾーンでは、各種ワークショップやトークイベントなどを精力的に開催。定期的に開かれているネコヨガでは、特別に格子戸を開放し、店全体を使って、ヨガのレッスンを行なっています。
パラレルキャリアという多忙を極める毎日で、休みはほぼゼロだけれど、そうしたイベントや、店を訪れるさまざまな人たちとの出会いを通して感受性が磨かれているのを感じる、と安村さんは語ります。
クラウドファンディングの立ち上げ当初から一貫して変わらない思いは、「お客さんの立場になって、お客さんの目線で考える」ということ。
そして、「お客さんの期待を裏切らない」こと、「自分で自分を裏切らない」こと。
当たり前だけれど、案外おろそかにされがちな大切なポイント。誠実な人柄が伝わってきます。
わたしたち、お仕事してますのにゃ
4匹の店員猫たちは、男の子っぽい名前の子もいるけれど、全員女の子で、保護猫カフェ「ネコリパブリック」中野店からやってきました。
4匹のうち3匹はいわゆる「りんご猫」。猫エイズのキャリアです。
だからといって、必ずしも発病するわけではなく、完全室内飼いで、ケンカをして噛み付いたりしなければ感染の危険性は低いといいます。
読太ちゃん。推定1歳半〜2歳。
天井近くのキャットウォークから人間どもを監視中。
鈴ちゃん。推定1歳半〜2歳。
読太ちゃんと似ているけれど、口元が白いのが鈴ちゃんです。2匹とも茨城の動物愛護センターで殺処分寸前に保護されました。
チョボ六ちゃん。推定2歳半〜3歳。
この日は開店前に撮影させてもらっていたのですが、開店時刻の14時になったとたん、2階の自宅とつながっている穴から、すとんと降りてきました。なんというプロ意識の高さ!
さつきちゃん。推定2歳半〜3歳。
昼間の撮影時には現われなかったさつきちゃんをなんとか撮ろうと悪戦苦闘。黒猫の撮影は難しい……。
リターンのひとつとして届いた、店員猫たちの写真入りのしおり。右端は幻の初代番頭猫のDr.ごましお。その隣は店長の三郎くん。4月22日生まれの16歳。
お店に出勤することはほぼありませんが、たまに階段の上から、元気なかわいい鳴き声で、店主や店員猫たちに檄を飛ばしています(?)。
そもそも安村さんがこれほどまでに猫まみれな人生を送ることになったきっかけは、16年前のこと。
当時住んでいたペット禁止のマンションの中庭で、野良猫が3匹の子猫を出産。ところが、その母猫が生まれたばかりの乳飲み子を残してどこかへ行ってしまったのです。
1匹、また1匹と命を落としていく様子に胸を痛め、安村さんはついに最後の1匹を保護し、家族に迎え入れることにしました。それが三郎くんです。
安村さんは1年を通して毎週土曜と日曜は決まって半袖Tシャツで店に立っています。
それは、年がら年中、毛皮だけで過ごしている猫たちと同じように、一定の条件で折々の気候を肌で感じるため。
そんなこと考えてみたこともなかったけれど、たしかに一理あり。
どこまでも猫の気持ちに近づこうとしているのです。
あえて「じゃない猫本」をオススメしてみる
店内には、新刊本・古本合わせて2,000タイトル以上もの猫本がずらりと並んでいます。
いわゆる猫本だけではなく、小説の登場人物が猫を飼っていたり、表紙や挿絵に猫が描かれていたり、本のどこかに猫が登場すれば、それも猫本として認定しています。
おかげで、大型書店の猫本コーナーではけっして見ることのない、ちょっと変わった本と出会うこともできます。
そこで、今回は安村さんにお願いして、あえて、いわゆる猫本「じゃない猫本」を選んでいただきました。
『なぞ怪奇 超科学ミステリー』斎藤守弘著、復刊ドットコム刊、 3,700円+税。
わたしからのムチャぶりに対して、真っ先にこの本が浮かんだという安村さん。
子ども時代、夢中になって100回くらい繰り返し読んだという思い出の本だそうです。
1970年代〜80年代前半に学研が出版していた「ジュニアチャンピオンコース」シリーズの1冊。
超能力や怪現象を扱った本書は、当時の少年たちの心を鷲掴みにしていました。
残念ながら長らく絶版になっていましたが、現代の印刷技術を駆使し、オリジナルの初版本を精密に再現した復刻版となってふたたび登場。
一見したところ、どこにも猫の要素はありませんが、じつは帯を外すと黒猫が姿を現わします。
そして、なかに登場する黒猫のエピソードのページには、かなり衝撃的なイラストが!
ぜひ、お店に来て、実際にこの本を手に取って、その目で確かめてみてください。
『はじめての木彫りどうぶつ手習い帖』はしもとみお著、雷鳥社刊、1,700円+税。
こちらはわたしのオススメ。くだんの「猫にゃん文庫」で選んだ10冊のうちの1冊。
ご存知の方も多いと思いますが、はしもとみおさんは、さまざまな動物たちをリアルに表現した、温かみのある木彫作品を数多く手がけている彫刻家です。
正直言って、よほど器用な人でないかぎり、この本を読んだだけではこんなに素晴らしい木彫作品を作ることはできませんが、制作過程も知ることができる充実の作品集となっています。
以前ワークショップに参加した際、目の前ではしもとさんがサクサクと彫り進めていく姿を見て、ただの木材に命が吹き込まれていくようだと感じたのですが、本書で、はしもとさんはこう語っています。
「命を吹き込むのではなく、命は、木の中にもうすでに埋まっていて、ワクワクと彫りだされるのを待っているのです。」(26ページより抜粋)
キャッツミャウブックスがオープンして9カ月、クラウドファンディングの期間も含めれば約1年が経過しようとしています。
振り返ってみると、とにかく時間が経つのが早かった、と語る安村さん。
8月8日の1周年の直前には、このお店ができるまでを記録した書籍が出版される予定です。
世田谷区若林1-6-15
03-6326-3633
14:00〜22:00
火休
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旅のおわりに
4回にわたってお送りした「世田谷線でめぐる小さな猫旅」、いかがでしたか?
1日ではちょっとまわりきれないほど、盛りだくさんになってしまいました。
猫と関係があるなしにかかわらず、オススメしたいお店やスポットはまだまだあります。
ぜひ世田谷線沿線に何度も足を運んで、自分の目と足で、お気に入りの場所を見つけてみてくださいね。
世田谷線でめぐる小さな猫旅、第1回~第3回はこちら。
第1回:世田谷線の招き猫電車
第2回:豪徳寺と招き猫
第3回:招き猫スイーツ&グッズのお店
みんなのコメント
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さつきちゃんが可愛いな