猫の口臭が以前よりも気になる、なんとなく口を気にしているようだし、よだれを垂らしていることもある・・・なんてことはありませんか。こんなとき、もしかすると歯周病になってしまっているかもしれません。
歯周病は人間だけでなく、猫だってなってしまうことのある病気です。しかも気付かないうちに進行し、最悪の場合には口の中だけでなく心臓や肝臓といった臓器にまで影響を及ぼすこともあります。それを防ぐためには、子猫の頃からのケアが大切です。
猫も歯周病になってしまう
歯周病というと、人間の場合には中年にさしかかるころから気になり始める口腔内の病気です。30代の約8割は歯周病にかかっているとも言われます。
歯周病になってしまうのは、実は人間だけではありません。口の中を不衛生にしていると、猫だって歯周病になってしまう恐れがあるのです。なんと3歳以上の猫の約8割が、歯周病と言われています。
それぞれについて、もう少し詳しくみていきましょう。
歯肉炎
歯肉炎は、歯周病の初期の段階です。歯肉が炎症を起こして赤く腫れてしまい、場合によっては出血してしまうこともあります。歯の表面には、歯垢や歯石がついてしまっているでしょう。
「歯垢(プラーク)」とは、歯の表面に付着している黄白色のネバネバしたものです。ご飯の後に歯磨きをせずに放っておくと細菌が増殖してしまい、歯垢となります。歯垢とはただの「食べカス」ではなく、「細菌の塊」です。
その歯垢が、唾液に含まれるミネラルを取り込んで石灰化したものが「歯石」です。歯垢をほったらかしておくと、約1週間くらいで歯石になってしまいます。
歯垢は、家で歯磨きをしたりすることで取り除いてケアすることができます。しかし歯石はかたく、家での歯磨きでは取り除くことができません。動物病院で取ってもらうしかなく、しかも全身麻酔をかけて処置をしなくてはいけなくなるのです。
また歯石がつくと歯の表面がデコボコになり、さらに歯垢が付きやすくなります。つまり歯のケアをサボると歯垢が溜まるようになり、そのままにしておくとそれが歯石となり、その歯石が原因でもっと歯垢が溜まるという悪循環になってしまうのです。
歯肉炎の段階であればまだそれほどひどくはないため、すぐに歯垢や歯石を除去して適切な処置を行うことで改善させられます。しかしそのまま何もしないでいると悪化して、歯周炎になっていってしまいます。
歯周炎
歯肉炎が悪化すると、その炎症は歯の根元にまで及んでしまいます。歯の回りには「歯周ポケット」ができ、やがて歯を支えている骨さえもダメになります。歯垢の中の細菌が作り出す酵素や毒素によって、組織はどんどん破壊されていってしまうのです。
こうなると、ちょっとした刺激にも弱くなって出血しやすくなります。化膿して膿が溜まってしまうこともあります。歯を支える骨がダメになれば歯はグラグラするようになり、抜けてしまうことだってあります。
そして怖いのは、そのまま進行すると口の中だけの問題ではなくなってくることです。
細菌が血管内に入り込むと、そこから体中に回って全身に感染症を引き起こしてしまうこともあります。そうなると、口腔内だけでなく肝臓、心臓、腎臓といった臓器にまで影響が出るようになります。
ひどい口臭やよだれは歯周病による症状かも
もしも歯周病になってしまった場合には、少しでも早く異常に気付いて治療を始めることが重要です。もちろん普段から歯磨きをしたりして口腔内のケアを続けてあげることも大切ですが、普段とは違う様子が見られたときには口の中を見てあげてください。
猫が歯周病になると、次のような症状が現れます。
- 普段よりも口臭がひどくなる
- よだれを垂らしていることが多くなる
- いつもと食べ方が違う
- ときどき歯をカチカチと鳴らす
- 硬いものが食べられなくなる
- 食欲がなくなる
- 元気がなくなる
- 歯肉が腫れて、赤くなったり出血している
- 顔が腫れてくる(かなりの重度になります)
このような症状が気になった場合には、口の中の様子を見てみましょう。歯垢がべったりついていたり、歯が茶色い歯石に覆われてしまっているかもしれません。出血しやすくなって、膿が溜まってしまっている可能性もあります。
そのまま放っておくと、痛みがひどくて食事もできなくなっていってしまいます。そして歯の根元を支える骨がダメになると歯がグラグラになり、やがて抜けてしまうかもしれません。
初期の段階で異常が起きていることに気がつけば悪化させずにすみますから、普段から口の中の様子もみてあげるようにしておきましょう。
歯周病の原因は歯垢や歯石、他の病気が隠れていることもあり
歯周病の原因は、先ほども言いましたが歯の表面に付いた歯垢と歯石です。歯垢の中にはたくさんの細菌がいて、その細菌が作り出す酵素や毒素の影響によって歯の周辺の組織が破壊されていくのです。ひどいと、歯を支える骨がダメになることもあります。
そしてこのような症状は、病気にかかって体の免疫力が落ちてしまっているとさらに悪化しやすくなります。
知っておいていただきたいのは、猫エイズウイルス(猫免疫不全ウイルス)や猫白血病ウイルスなどに感染してしまっているときにも免疫力が落ちてしまい、歯周病を起こしやすくなるということです。
その他に腎臓病や糖尿病などがある場合にも、歯周病は悪化しやすくなります。
このように、歯周病の後ろに重大な病気が隠れていることもあるのです。歯周病の症状が見られた場合には早めに受診して、他の病気にかかっていないかどうかを調べることも大切になります。
歯周病予防のためにも歯磨きをしよう
歯周病を予防するためには、何よりも普段から歯磨きをしたりして口の中のケアをしておくことです。できれば毎日歯磨きをすることが理想ですが、嫌がってしまう子もいるでしょう。そんな子でも少なくとも3日に1回は歯磨きをするようにしましょう。
特にウェットフードばかりを食べていると、ドライフードの場合よりも歯垢が溜まりやすくなってしまいます。普段から口の中の様子も気にしておくようにしましょう。
歯磨きは、次のようにやってみてください。ほとんどの場合、嫌がってなかなか歯磨きをやらせてもらえないでしょう。でも、愛する猫ちゃんのためです。少しずつでも慣れていってもらうようにしましょう。
猫用歯ブラシなどがよいが、無理ならガーゼで
猫用の歯ブラシが市販されていますから、その歯ブラシを使ってみてください。もしくは人間の赤ちゃん用のやわらかくて小さな歯ブラシでも良いでしょう。
歯ブラシだと嫌がってしまうようでしたら、まずは水で濡らしたガーゼを指に巻き付けて歯の表面を優しくこすってあげることから慣らしてあげていってください。
強くこすると痛くて嫌がってしまうかもしれませんから注意しましょう。口の中を触られることになれるためにも、優しく話しかけながらやってみてください。
ガーゼで嫌がらずできうようになったら、歯ブラシを使ってみましょう。
猫用の歯磨き粉を使おう
猫専用の歯磨き粉が市販されています。これには猫が好むようなシーフード味やチキン味などがついているので、このようなものを使ってあげるとよいでしょう。
歯磨き後には口をゆすぐわけではなく飲み込んでしまうので、歯磨き粉に使われている成分にも気をつけてあげてください。歯磨き粉を嫌がるようなら水だけでも構わないので、歯磨きをするようにしておきましょう。
間違っても人間用の歯磨き粉は使わないでください。人間用には猫に害のある成分が含まれていることもあります。味や泡立ち具合が嫌で、二度とやってくれなくなくなるかもしれません。猫には猫専用のものを使いましょう。
猫の後ろ側から磨いて
猫の正面からだと、警戒して嫌がるかもしれません。猫の後ろ側からやってみてください。膝や台の上に乗せて後ろから磨くようにすると、やりやすいかもしれません。
無理に大きく口を開けなくても、歯ブラシを滑り込ませることができれば磨けます。歯ブラシは大きく動かそうとするのではなく、小刻みに動かすようにしてみてください。
ただし無理矢理では歯磨きを嫌がるようになってしまいます。最初から理想的に磨ける必要はないですから、少しずつ口を触られることなどに慣れていくようにしてあげてください。
特に奥歯は丁寧に
特に歯垢が付きやすく、歯周病のリスクが高いのは上の奥歯です。近くに唾液の出口があるため、唾液中のミネラル分を取り込んで歯石になりやすくなります。
ですから、上の奥歯はなるべく丁寧に歯磨きをしてあげましょう。
猫は約1週間で歯垢が歯石に変わってしまいます。歯石になってしまうと家での歯ブラシでは取ることができす、動物病院で取ってもらうしかなくなってしまいます。ひどい場合には全身麻酔をして処置をする必要もあります。
そうなってしまう前に、普段から歯垢をためないようにしておきましょう。
一度に全部をやらなくてもいい
嫌がる猫を無理矢理じっと押さえつけて口の中全体を磨いていると、時間がかかってしまいます。このやり方だと、猫は(人間にとっても)長時間ストレスを感じることになります。
それよりも今日は右の奥歯、明日は左の奥歯とブロックごとに分けて順番に磨いていくようにしてもよいでしょう。これでしたら1日の歯磨き時間は短時間で済みます。
ついてしまった歯垢はすぐに歯石に変わるわけではありません。ですから、数日かけて口の中全体をキレイにしてあげるとよいでしょう。
歯磨きが無理なら、歯石予防効果のあるフードで
どうしても歯磨きを嫌がるようでしたら、歯石予防ができるフードもありますから試してみてください。少しお高めかもしれませんが、口の中のケアは大切です。
ただし歯垢を一番効果的に取ることができるのは、やはり歯磨きです。
今まで歯磨きをしたことのなかった子に急に歯磨きをさせるのは難しいと想いますが、まずは口を触ることから少しずつ慣れさせていってみてください。
できれば子猫のときに、遊びのように歯磨きに慣れさせておくとよいでしょう。若いときには歯石が溜まって歯肉が腫れたりすることはないですが、だからといって歯磨きをサボってしまうと歳をとってから大変になります。
人間の歯周病も同じですが、これは気付かないうちに進行していく病気です。歯の周辺の組織は破壊されてしまうともう元には戻りませんから、そうなる前に日々のケアを続けておくようにしましょう。
しっかり食事をして元気に長生きするには、口の中の健康が重要です。もしも今の時点で歯石が付いていたり、歯肉が赤くなってしまっているようでしたら、一度動物病院で相談してみるとよいでしょう。