猫にも起こりうる精神病4例。問題行動は性格ではなく病気の可能性も

猫たちは本当に幸せそうに眠り、満足そうにごはんを食べ、のびのびとマイペースに暮らしているように見えますよね。私たちはそんな猫を眺めては癒され、何の悩みも無さそうでいいなぁと羨んだりします。

私たち人間は日々の暮らしで色々と悩みを抱え、時として精神を病んでしまう事もありますが、猫だって同じように感情豊かな動物、時には心を病んでしまうこともあるんです。猫の精神病について解説します。

実はこんなにもある猫の精神病

最も身近な精神病と言えばうつが思い浮かびますが、近年ペットの犬や猫のうつが増えてきていると言われています。

実際は増えているわけではなく、人間のうつが「ただの心の疲れや弱さ」から「本人の力では抗いきれない病気」と認識が改められてきたように、犬や猫に家族として向き合い、健康状態に気を配る飼い主が増えてきたことで顕在化してきたのでしょう。

うつを始めとする精神病はいずれも原因がはっきりとは特定されていません。しかし、心は脳で作られたもの。先天的なものであったり、何かしらの損傷を受けたり、ストレスや環境によって必要な物質の分泌が不足したり過剰だったりして脳に異常が生じたことで精神病を発症すると仮定されています。

猫の脳は9割近くが人間に似た構造になっており、記憶や感情を司る大脳皮質が発達しています。人間のように精神病がおきても不思議ではありません。

飼い主と離れるストレス「分離不安」

文字通り、飼い主と離れることで不安になって問題行動を起こしたり、抑うつに陥る状態です。

飼い主も猫もお互いの事がとっても大好き、それは素晴らしい事です。しかし、大好きが行き過ぎて依存の状態になってしまうと猫にとっては飼い主と一緒にいられないこと自体がストレスとなり、強い不安を感じてしまいます。

本来群れで暮らす動物である犬が群れのリーダー(=飼い主)と離れることで不安から引き起こす問題行動の症状として知られていました。

昨今では猫も子猫の時から室内で大切に飼われ、いつまでも子猫気分で精神的に自立しなくても生きていけるため、この場合は母猫(=飼い主)と引き離された子猫の気分で分離不安の症状を呈するものと考えられています。

帰宅したときに

  • 粗相や嘔吐の形跡がある
  • 物が壊されたり、部屋が荒らされている
  • 興奮状態でダッシュしたり甘えてきたりする

これに加えて不在時の状態が

  • 大声で鳴き続ける
  • 攻撃的になる
  • 食欲がなくなり、明らかに落ち込む
  • 自傷行為のレベルで執拗に自分を舐めたり噛んだりする

上記の様子だった場合、分離不安を起こしているかもしれません。出かけるのを邪魔するようになったり、粗相している対象が飼い主の衣類や持ち物など飼い主の匂いのするものである場合はより大きな不安であると考えられます。

▼飼い主さんがいないと猫が自分の尻尾を噛んでしまうこともあります
しっぽを噛むときの猫のきもち。噛んじゃう原因とやめさせる方法は?

私がいないと不安になっちゃうなんて!愛おしさが先に立ち、つい軽く考えてしまいそうですが、尿が出ない、便が出ない、餌を食べない、尻尾を噛み続ける…ストレスからくる行動も、過ぎれば身体のトラブルに直結します。

反復行動で気分を紛らわす「常同障害」

動物園で、檻の中をぐるぐると歩き回る動物を思い浮かべてみて下さい。人間でも無意識に爪を噛んでしまったり、髪をむしってしまったり…ストレスが溜まった時、動物も人間も気を紛らわせようとつい同じ行動を繰り返してしまいます。

ふと起こした行動で、脳内で分泌された物質が麻薬に似た作用をもたらしたとします。それによって気が紛れたので更に繰り返します。更に脳内麻薬が出ます。気が紛れます。更に繰り返します。やめどきがわからなくなります。

こうして行動のシナプスが強化されてゆき、ふとした時にもまた同じ行動を繰り返し続けてしまうと言われています。

猫が自身でも思いがけず落下したとき「何事もなかったことにしよう!」みたいな顔をして唐突にグルーミングを始めることがありますが、平常時の習慣を踏襲することで気を落ち着けようとする行動で、これ自体はごく普通の事です。

しかし、毛が抜けるほどに舐め続けてもまだ止められないようなら、もはや病気の域と言えます。他にもやめられない行動の例には以下のようなものがあります。

  • 尻尾を追いかけてぐるぐる回る
  • 爪を噛んで引っ張り続ける
  • 体の一部を舐め続ける
  • わけもなく鳴いて止まない

ウールサッキングと呼ばれる布製品を噛んで噛んで噛み続け、時には誤飲してお腹を詰まらせてしまう異常行動がありますが、これも常同障害の一つです。

▼ウールサッキングは誤飲行動でもありますが、この他にも誤飲しやすいものはたくさんあるので飼い主さんはしっかり気を付けておきましょう
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アクシデントがトラウマになる「恐怖症」

花火や雷、人の歓声などの突発的な騒音。突然見慣れない場所に連れてこられて嫌な事をされる病院通いや突然現れた猫にとって見知らぬ来客。猫は「突然」日常を乱すものが苦手です。

猫の社会化は2~7週間の間に養われるため、このごく若いうちに様々な外的刺激を経験した猫であれば突発的な出来事も「人生(ニャン生)にはこういうこともある」と受け止め、受け流すことが出来ます。

しかし、そうでない猫の場合、突然やってきた恐怖がトラウマとなって刷り込まれてしまい、ふとした事で怯えたり攻撃的になるなどのパニック状態を繰り返すようになってしまいます。

猫の本能のひとつに転嫁攻撃というものがあります。猫動画でアクシデントに見舞われた猫がびっくりして隣の猫をひっぱたくというものをよく見かけますが、これなんてまさにそのもので、「なにこれ怖い!」の直後、それがそばにいた猫や飼い主のせいで起こったと決めつけて攻撃に転じるのです。

一発やつあたりしたあとは何事もなくグルーミングやあくびのひとつでもして、日常に復してくれれば良いのですが、中には飼い主を敵と誤認し続けて凶暴化したまま戻らなくなり、手放さざるを得なかったり、安楽死を検討する最悪のパターンにも至ることがあります。

ある研究によると、印象的で瞬間的な出来事に対する短期記憶は、人間が30秒ほどに対し、猫は10分も持続することがあるそうです。人間ならば「ああびっくりした」と一瞬ドキッとして終わるような出来事も、猫はその気持ちを継続して感じ続けてしまうことから、恐怖症を起こしやすいとも言えます。

生きる元気をまるごと失う「うつ」

生きていく上で必要な欲求が低下し、病気などの身体的な原因も無いのに活動が低下してしまう状態です。動物としての欲求はすなわち「食う・寝る・遊ぶ」。

うつ状態に陥った猫は食欲を失い、睡眠が浅くなり、遊ばなくなったり、グルーミングをしなくなったり、全体的に無気力になったり逆に攻撃的になったりします。人間のうつの症状とほぼ同じですね。

猫は本来単体で生活し、変化を好まない動物です。多頭飼育の環境下や、引っ越しなど住環境の変化、飼い主の結婚や出産で家族が増えた、猫にとって大切な場所(寝床やトイレ)が清潔に保たれていない。こうした猫にとってストレスの多い環境が長く続くとうつ状態に陥ってしまうことがあります。

うつは心の風邪である、とよく表されます。異論も多い表現ですが、弱って抵抗力が落ちたところへ様々な病気が乗り入れてくる恐れがあるという点では確かにそうかもしれません。

分離不安からのうつ、うつや分離不安の症状のひとつとしての常同障害、様々な症状や原因が相互に影響してきます。うつは単に気分の問題ではありません。自律神経の乱れも相まって「普通に生活したくても動けなくなる」のです。

▼人間の場合でもそうですが、一度鬱になってしまうとそこから抜け出すのが本当に難しくなるのだと思われますんな精神病なのかを診断することができます
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猫の精神病を治療するには

精神病は脳が分泌する物質を薬でコントロールすることによって、症状が改善する場合があります。そのため、獣医師が人間に使うものと同じ抗うつ剤などの薬を猫用に処方を変えて用いたりします。精神安定剤のサプリも広く販売されています。

しかしながら、人間の精神病の場合はカウンセリングによって患者の状態の変化や副作用の重さをはかり、処方が決まりますが、猫の場合はこの「聞き取り」ができません。副作用のリスクや適量の見極めが難しいといった点からも薬物療法よりまず行動療法が優先されます。

例えば恐怖症の猫であれば、恐怖対象に少しずつ慣れさせ、それが怖いものであるという認識を改めてもらうといったやり方です。

常同障害の猫の場合、繰り返しの行動に対して飼い主さんがなだめたりたしなめたりとリアクションを返すことで「こうすれば関心が引ける」と逆効果になりかねません。恐怖症や分離不安にしても同じことで、猫の行動に過剰に反応しないこと、という飼い主側の意識も大切になってきます。

うつならそのストレス源を取り除いて環境を改善させることが第一です。

良かれと思って悪化させることのないように、まずは獣医師に相談の上、飼育環境や発症の背景を客観的に見定めてもらい、治療に向けて専門的な判断を仰ぐのが先決です。

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分離不安の猫のためにすべきこと

ここでひとつ、分離不安の悪い対応例を挙げます。宅の猫は完全な分離不安でした。

飼い主(私)が出かける時は玄関に身を投げうって邪魔をし、帰宅すれば鳴きながらまとわりついて離れず、在宅時はとにかく体のどこかがくっついていなきゃイヤ、トイレもお風呂もついてきてしまうといったような、つまりとてつもなく可愛い猫だったのです。

反面、飼い主が席を外したすきには凶暴化して人を襲い、一晩家を空けるようなことがあれば布製品に粗相し、充電器やマウスのコードを噛み千切るような有様。それでも病識が無かった飼い主は、それに全力で応えることが愛情と勘違いしました。

猫を寂しがらせないようにと「いってきます」や「ただいま」をその都度しっかりと告げ、猫がお帰りなさいでハイテンションになっていれば猫なで声で一緒に騒ぎ、入浴中も猫が望めば招き入れていました。

結果、猫にとっては飼い主の関心がすべて自分に向けられていることが通常であり、そうでないときに大きなストレスがかかることになってしまったのです。

飼い主の仕事が忙しくなったり、結婚したりして猫に日常の100%を注ぐことが難しくなった時、または入院など予期せずして長期間家を空けなければならなくなった時…猫がストレスから健康を損なう事態になりました。

こうならないためにも、分離不安を軽減させる一般的な対策を挙げます。

ケージで過ごす習慣をつける

飼い主と一緒にいる時に、餌も水もトイレも完備したケージの中で一定時間過ごすことを習慣づけて安心できる場所と思わせることで、飼い主が不在で猫が不安を覚えた時に、ケージが猫にとって自発的に避難できる精神的シェルターの役割を果たせるようにします。

猫のテンションに付き合わない

猫が玄関で繰り広げる行かないで踊りやお帰りなさい祭りは愛おしいもの。しかし、飼い主がそれに付き合ってしまうと、猫はそれが正しい行動と認識してしまいます。飼い主が強い心で「私が出かけて帰ってくることはごく普通の事なの」という姿勢を貫きましょう。

外出を強調しない

「行ってきます」や「ただいま」を猫に伝えず、さらっと出入りすることで「いつのまにか姿が見えないけどいつのまにか帰ってきているのがうちの飼い主」と猫に思ってもらいましょう。テレビや電気を点けたままにしておくのも効果的です。

もう一匹猫を飼う

猫の分離不安は猫と飼い主が1対1の環境で起こりやすいと言われています。猫が飼い主以外にも愛情を向けられる仲間を迎えることで解消される事が多いのですが、昨今の住宅事情ではなかなか2頭は難しい場合もありますよね。

猫の気が紛れるようなオモチャや映像を用意するなど、猫に飼い主以外の趣味を作ってもらうのも良さそうです。

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不在時の粗相やいたずらを叱らない

分離不安の猫に多く見られるのが飼い主不在時の粗相や破壊行為ですが、帰宅後それらについて猫を叱るのはNGです。不安を紛らわせるためにした事で叱られてしまうと猫は更なる不安を感じてしまいます。そもそも時間が経過しているので叱ってもあまり意味がありません。

▼猫が粗相をしていたとしても、やはり基本は3秒ルールを導入するようにしてください
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いかがでしょう。私のように猫とべったり過ごしてきた飼い主にとってはこれだけのことがまるで猫を突き放しているように感じられるのではないでしょうか。

しかしこれらは猫にかける愛情を減らしましょうという意味ではなく、よりよい関係を保つためにある程度けじめをつけましょう、ということです。

分離不安は飼い主と猫がいわば共依存の関係に陥っている状態です。帰宅時に全身で甘えてくる猫を無視するのは相当な心の強さが要求されますよね。

しかし、一時の心の痛みより、飼い主がいないことが猫にとって重大なストレスになりつづける事の方が深刻です。猫も、そして飼い主も適度な距離でお互い精神的な自立を目指したいものです。

猫の精神病、診断の難しさ

人間が精神的な不調を感じた場合、患者は言葉で自身の症状や精神状態を医師に説明し、身体的な検査で体の病気の可能性を否定して精神病と診断されます。

しかし、言葉を話さない猫の場合、この基本となるカウンセリングができません。体の病気の可能性を徹底的に排除するためにMRIやCTといった人間並みの検査する、というのもかかる費用、それ以上に猫本体への負荷を考えるとあまり現実的とは言えません。

また、どこまでが本能の延長やその猫の個性であり、どこからが精神病なのか。この区別は難しく、人間目線で見て問題があったり異常に見える行動をする猫がすなわち精神病である、と断じることはできないのです。

例えば飼い主がいないと尿が出ないということにしても、実は分離不安によるストレスではなくて泌尿器のトラブルかもしれません。猫のストレスに気を配ることは飼い主のつとめ、とはいえ安易に精神病を疑うことは体の病気を見落とす危険があります。

▼猫の泌尿器にトラブルが起きている時の症状については、こちらをご覧ください
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どんな些細な事でも、気がかりな行動が見られたらまずは獣医師に相談してみましょう。

現在、ストレスが増えると増加する血中のホルモン物質の量とうつの関連や、大脳辺縁系の分子の様子を放射線によって画像化することで精神病の原因を探ろうとする研究が進められているそうです。

近い将来、人間はもとより、物言わぬ猫たちの心の病も検査でわかる日が来ることを期待します。

みんなのコメント

  • ナナちゃんのお母さん より:

    うちの猫八歳が一週間余りで急に精神疾患ぽくなりました。病院に連れて行ったけど、血液検査では内臓にはなんら問題はなく、精神疾患なのかもしれないが、MRIを取る程でなく、こればかりは分からない経過観察という事になりました。病院から連れかえってからは食欲もなくなりました。物凄く悲しい気持ちですが、このページを見て少し心が和らいだ気がします

    • まき より:

      その後、猫ちゃんはどうなりましたか?
      うちの猫が記憶障害みたいで先日、どこかわからない、他の猫に威嚇を始め食欲が落ち寝てばかりで心配してます。。

  • いさとしまま より:

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