2016年に猫からの感染症で国内初の死亡例がありました。感染症を防ぐには、隔離・消毒・手洗いが必要です。そのなかでも、一番簡単ですぐ実行できるのが手洗いです。
猫を触ったあと、手を洗っていますか?自分が感染症になると、猫の世話もできなくなります。自分自身と愛猫を守るためにも、日頃からの手洗いを見直してみましょう。
先日、参加した獣医学フォーラム2018市民向けプログラム「人と動物が長く健康に暮らすための感染症の基礎知識」講師:木村拓哉獣医師、「最近の犬と猫の感染症事情」講師:茂木朋貴獣医師のセミナーを元に解説していきます。
この記事の目次
かわいい動物が感染源に。本当は怖い感染症
私たちが生活している環境には、さまざまな微生物がいたる所に存在しています。私たちの体には常在菌と呼ばれる微生物がいますし、酵母菌やイースト菌といった食べ物の発酵に使われる菌もあります。
ただ、一部の細菌やウイルスは、病原菌となってしまいます。そして、私たちがかわいがっている猫にも病原となりうる細菌がいるのです。
猫から感染した人が死亡するという2つの事例
ただ、発症してから3日後に死亡したということですから、気がついたときにはもう遅いという感じですね。
犬や猫などの動物から人間にうつる病気を人獣共通感染症といいます。人間の感染症のうち約70%が、この人獣共通感染症だと言われています。先ほど紹介した以外にも猫からうつる病気についてみてみましょう。
回虫症、瓜実条虫症、パスツレラ症、猫ひっかき病、トキソプラズマ感染症、疥癬、皮膚糸状菌症、Q熱など。ざっとあげただけでもこれだけの病気があります。
病院で受診するときは、病気に直接関係ないと思っても、動物を飼っていること、噛まれたことなどを伝えましょう。そして、噛まれたときは真っ先に水で洗い流すことが重要です。
先ほど紹介した死亡例も、すぐ手洗いをしていたら、重症化しなかったかもしれません。
自宅でできる3つの予防方法~隔離、消毒、手洗い
予防方法の話をする前に、参考までにナイチンゲールの話を紹介します。意外と知らなかったことかもしれません。
ナイチンゲールは衛生管理の立役者だった
クリミア戦争で、看護師として活躍したナイチンゲールですが、実は当時は微生物が病気の原因とは分かっていませんでした。そのような環境のなかで、彼女は衛生状態の改善をすることを積極的に行いました。
その結果、死者が劇的に減少したのです。この例からも、いかに身の回りを清潔にすることが重要なのかお分かりになるでしょう。
感染症を予防するための3つの方法
感染症を予防するために必要なことは次の3つです。
- 隔離
- 消毒
- 手洗い
隔離
いきなり隔離というと少し大げさに聞こえるかもしれませんが、多頭飼いをしている場合、別の動物に感染してしまうことを避けるため、感染した動物との距離を広げる必要があります。
具体的には、別の部屋に移したり、症状が改善するまではケージ飼いをする、といった対策になります。
消毒
消毒というのは、病気を起こす微生物を問題ない程度まで取り除くことです。それに対して、滅菌とは微生物を完全に死滅させて無菌状態にすることです。滅菌は専用器具が必要ですので、家庭で簡単に行うことができません。
自宅でできる消毒について考えてみましょう。今は、除菌スプレーや抗菌製品など細菌を取り除く商品がたくさん出回っています。ただ、殺菌・除菌・抗菌という言葉は定義があいまいなのです。
もちろん、菌の数を減らすことはできますが、完全ではないので頼りすぎることなく使いましょう。
手洗い
手は感染拡大の最大の要因です。何かを触らない日はないですよね。そして自分が触ったものに他の人が触る、そしてまた別の人が触る・・・どんどん広がっていくことは明らかです。ゴム手袋での作業も穴が開いていたら意味がありません。
近年は先ほど説明したように、除菌製品などが増えて衛生環境がよくなっています。ただ、頼りすぎる分、手の洗い方が雑になって重要性が薄れてきているようです。
例えば、動物を「手」で触っているのに、感染症の症状が「腕」に出る例が実際にあるのです。これはきちんと洗っていない手で、腕を触っているからです。
ちゃちゃっと洗いはもう止めましょう。正しい手洗いの方法
日常的な手洗いでは、親指、指先、指の間に洗い残しが多いというデータがあります。また、洗う前の準備として、指輪、時計、アクセサリーなどは外します。爪も切っておきましょう。
ネイルをしておしゃれを楽しんでいる方もいらっしゃると思いますが、猫を飼っている方にはあまりお薦めできませ。ネイルの成分は人間が口にしても問題が無いものを使っていますが、猫にとってはまだ明らかになっていません。
そして臭いがきついため、いたずら予防にネイルを塗った指を差し出して止めさせるというやり方もあるくらいです。特に除光液は危険です。除光液がついたコットンなどが猫に触れないように注意しましょう。
動物医療従事者のなかにネイルをしている人はいないはずです。
続いては画像を使って具体的に手洗いの方法を順番にみていきましょう。画像は石鹸がついていると分かりにくくなりますので、省いています。
きちんと洗い残しのないように洗うには、ハッピーバースデーをゆっくり2回歌うくらいの時間が必要です。突然バースデーソングを歌いながら手を洗うと、びっくりされるかもしれませんが、手洗いが楽しくなってくるような気がしませんか。
洗い方1:石鹸を泡立てながら手のひらを洗う
ハッピーバースデーツーユー×2
洗い方2:手の甲を洗う~カメのポーズ
ハッピーバスデー ディア○○
洗い方3:指先、爪の間を洗う~猫の手ポーズ
ハッピーバースデーツーユー
洗い方4:指の間を洗う~お山のポーズ
ハッピーバースデーツーユー×2
洗い方5:親指を洗う~バイクのポーズ
ハッピーバスデー ディア○○
洗い方6:手首を洗う
ハッピーバースデーツーユー
洗い方7:最後はきれいに洗い流す
ちなみに、花王株式会社さんのホームページに掲載されている「あわあわ手あらいのうた」も分かりやすくて参考になりますよ。
さらに詳しく、石けんの選び方と乾かし方
手を洗うときの石けんや乾かし方もさまざまな種類ややり方があります。1つずつ検証していきましょう。
石けんの扱い方と成分に注意しましょう
最近はアルコール消毒用の製品が売られていますが、アルコールは手に汚れがある場合は効果がありません。必ず仕上げ用に使いましょう。ほとんどの方は、流水で石鹸を使って洗うと思いますが、石鹸も種類によって注意点があります。
・液体石鹸~もれた液体が容器についてしまったときは必ず容器も洗いましょう
・固形石鹸~汚れた固形石けんを使用しても細菌は感染しないというデータがありますが、小さく切って早めに使うようにしましょう。
・薬用石鹸~トリクロサンという成分が入っている製品は使用を避けた方がよいでしょう。2016年アメリカで販売停止をしたことを踏まえて日本の厚生労働省もトリクロサンを使用している製品を1年以内に切り替えるよう報道発表されました。
自分だけのタオルか1枚ずつのペーパータオルがおすすめ
乾燥方法もさまざまあります。それぞれ注意点をあげてみます。
・タオル~家庭などでタオルを共用している場合は、頻繁に交換する必要があります。
・ジェットタオル~家庭で使っているところは無いかもしれませんが、公の施設ではよく見られる、風が出てきてもみもみするタイプです。とても簡単に使えますが、内部の清掃が必須です。
また、風が出ているということは、周りの空気を取り込んでいるということです。汚染された温風が出ている場合もありますので、置かれている周りの衛生面にも注意しましょう。
・ペーパータオル~1枚ずつ使い捨てですから理想的といえます。家庭で使うにはコスト面が難点です。
手指衛生は全ての基本~自身の風邪予防にも
いつもより少しだけ時間をかけることで手洗いの効果が倍増します。ぜひ、実践していただきたいのですが、毎回このように洗うのは大変かもしれません。ただ、次のようなときは試してみたいものです。
- 外出から帰った後、トイレ後は当たり前
- 猫に触った後
- 猫のトイレの掃除をした後
- 猫の食器に触れた後
猫は口の中の細菌が一番多いのです。極端に言うと、便より口の方が汚いということになります。かわいい猫ですが、キスをするのは控えましょう。
また、保護猫の譲渡活動をしている人は、新しい飼い主さんにも手洗いの重要性を伝える必要があります。このように、情報を発信することで猫を守り、自分自身を守ることができます。
風邪が流行する季節も、ぜひ自身の風邪対策にもご紹介した正しい手洗い方法を役立ててみてはいかがでしょうか。