猫はなぜそんなに伸びる!?猫がのび~る身体と心のしくみ

まるでヨガのようにぐいーっと背伸びをしたり、高いところにあるおやつを狙っていたり、抱き上げられて伸びていたり。
猫と暮らしていると、「伸びる」猫の姿をよく見ますよね。

Twitterで人気のハッシュタグ、「#全日本猫伸ばし協会」 でも、実にさまざまな姿でびろーんと伸びている猫を目にすることが出来ます。

しかし「猫背」という言葉があるように、猫本来の姿勢はどちらかというと背を丸めているもの。伸びている猫がどことなくユーモラスに見えるのもそのためなのかも知れません。

では猫はなぜわざわざ「伸びる」の?

猫が伸びる、その理由を色々な角度から見てみましょう。

猫は固体にも液体にもなれる?イグノーベル賞の猫論文

2017年、「まず人をクスッと笑わせ、その後考えさせる」研究に与えられるイグノーベル賞の物理学賞を受賞した一本の論文が、世界中の話題をさらいました。

その名も
「猫は固体と液体両方になれるか?(Can a Cat Be Both a Solid and a Liquid?)」

▼論文(英語原文)はこちらの16ページで読めます。
Rheology Bulletin

論文の猫写真1
論文の猫写真2
(出典:Rheology Bulletin)

実はこの論文、レオロジー(流動学)に基づく真面目な考証なのですが、実証例として提示されている写真の中にも、様々な大きさ、形の器にはまる猫に混じって、狭い溝に合わせて流れるようにしっかり伸びた猫が取り上げられています。

この、液体かと疑われたあげくに論文にまで書かれてしまう体の柔らかさがあってこそ、猫はとことん伸びることが出来るのです。

猫が伸びる物理的な理由を、身体のしくみから解説

では、猫が伸びるその訳を、まずは物理的な面から探っていきましょう。

猫でなくても、動物は身体が伸びる時、

  • 関節
  • 筋肉
  • 皮膚

の三つが作用しています。

猫は人間よりも関節を大きく動かせる

猫も人間も同じ「脊椎動物」ですが、実は猫の脊椎は人間よりも多いのです。

首の骨(頚椎)から胸の骨(胸椎)、その下、骨盤に至るまでの腰の骨(腰椎)に至るまで、人間の脊椎は24個の骨が組み合わさっています。

猫はそれよりも胸椎が1つ、腰椎が2つ多く、計27個の骨を持っています。

骨が多いという事は当然その間をつなぐ関節も多くなり、つまり動かせる部分がそれだけ多くなります。

また、骨同士をつないで関節を形作る靭帯や、背骨同士の間にあってクッションの役割を果たす椎間板も非常に柔軟なことも、関節をより大きく動かせる理由なのです。

猫の筋肉は柔らかくよく伸びる「速筋」が多い

スポーツや、そこまでいかなくても筋トレをしたことがある方なら、

  • 速筋
  • 遅筋

という言葉を聞いた事はありませんか?

「速筋」は読んで字のごとく、瞬発力による素早い動きをするときに使う筋肉で「白筋」とも呼ばれます。

一方「遅筋」は遅く動くための筋肉、ではなくて持久力を伴う長時間動き続けるための筋肉で「赤筋」とも呼ばれます。

この二種類の筋肉は人も猫も同じように持っていますが、猫は速筋の割合が遅筋よりも多く、マラソンよりは短距離向きのタイプなのです。

猫の動きを見てみると、長時間動き続けるよりも、高いところにジャンプしたり急にダッシュしたりといった、明らかに瞬発力で動いているのが良く分かります。

さてこの速筋は、ダイナミックで素早い動きをする筋肉のため、構造上遅筋よりも柔らかく、それゆえよく伸びるのです。

リラックスした猫の身体を触ってみると、太っていなくても肉質が柔らかいのがよく分かりますよね。

この柔らかさこそが、猫が伸びる秘密の一つなのです。

猫の皮膚、ルーズスキンはよく伸びる

猫のお腹はぷにぷにと柔らかいですよね。ためしに引っ張ってみると皮がどんどん伸びて、一体どこまで伸びるんだ!?とびっくりした経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか?

この伸びる皮膚は「ルーズスキン」と呼ばれ、太っている痩せているに関わらずどんな猫にも見られる特徴です。

猫の皮膚は柔らかくて良く伸びます。狩りや喧嘩のときに爪や牙で襲われたとき、皮膚が伸びることで傷がつきにくいようになっています。

また、ジャンプをしたり狭いところに入ったり、猫の柔軟な身体を生かした動きを邪魔しないためには、この皮膚の柔らかさが必要なのです。

骨も伸びるし筋肉も皮膚も伸びる。猫が物理的に伸びられるのも不思議はありませんね。

どんな気分で伸びてるの?伸びるシチュエーションと猫のきもち

猫が伸びるときと言えば、皆さんはどんなシチュエーションを思い浮かべますか?

  • 起きたとき
  • 寝ているとき

に伸びているのを目にすることが多いと思いますが、我が家にいた猫は

  • 叱られた後
  • 失敗した時

にもぐぐーっと起きたときのようなストレッチをしていました。

また、撫でて欲しいときには顔だけこちら向けに固定したまま、床にごろごろ寝転がってくねりながら最後にお腹を見せ付けるように伸びてフィニッシュでした。

では、猫はどんな時にどんな気持ちで伸びるのか、見てみましょう。

寝起き、動き出す前

気持ちよさそうに寝ていた猫が起きた時、まず人間が肩こりをほぐすポーズのようにぐっとお尻を引いて前足を伸ばし、それから今度は前足に全体重をかけて後ろ足を伸ばします。

それでも足りないときは後ろ足を片方ずつ後ろに上げて、まるでバレリーナのように伸ばしていますよね。

寝起き、動き出す前のこの伸びは、「さあ、これから動くぞ、身体をほぐそう」の伸びです。

ためしに一連の動きを同じポーズを取ってみてください。肩から背中、腰はもちろん、腕の筋肉や太ももまで、実に気持ちよく伸びてくれます。

いつ獲物が現れてもいいように、そしていつ猫じゃらしが振られてもすぐ飛びつけるように、猫は伸びて準備しているのです。

ストレスからの逃避、気分転換

例えば、粗相をして叱られた時。

個体差はありますが、猫は「自分が叱られている」ということを理解できています。

特にいたずらの現場を押さえられると「マズい!」という顔をしたり、しゅんとうなだれてみたり、逆に「可愛いから許して」といわんばかりに甘えてみたり、実に表情豊かに反応します。

しかし、しばらく経つと、寝起きと同じようにぐっと伸びをして、そして何事も無かったかのように遊び始めたりどこかへ行ったりします。

この伸びる行動はストレスからの逃避や気分転換、つまり「よしリセット!じゃ、次行きますか~」の伸びです。

遊んでいて飽きたときや、食後に洗顔を終えて一息ついた時、時には高いところに飛び上がり損ねた時に伸びるのも同じ心理でしょう。

リラックスしている

丸まって眠っている猫が、いつの間にかだらんと伸びていたり、起きていても身体を撫でたりマッサージをしているうちに片脚が伸び、段々と横倒しになり、ついには脚を4本とも長々と伸ばしていたりします。

このようなリラックスしているときの伸びは今いる場所が絶対に安全だと分かって寛いでいる証拠。起きているときはゴロゴロと喉を鳴らしていることも良くありますね。

眠っているときに不意に触ると怒られたりするので、撫でるときはそっと優しく。上手くすると、撫でる手に沿ってさらに伸びてくれます。

逆に、撫でられて気持ちよく伸びているのに手を止めたりすると、「何で?」と言う顔をされたり、催促されたりします。その時は時間が許す限りつき合ってあげましょう。

暑いとき

これは気持ちとは関係ないかもしれませんが、暑いときには猫はひんやりとした場所を探し出しては、床にできるだけ密着するように伸びています。

お腹も、脇の下も風通しが良いように仰向けにひっくり返っている場合もあります。

猫が暑いと感じる温度は人間にとっては当然暑いので、冷房をつけたり冷却シートをつかったり、暑さ対策をしてあげてくださいね。

うちの猫が伸びに伸びたときの話

うちにいた猫は、鰹節が大好きでした。猫用の鰹節を時々買ってきていたのですが、ある日、出汁用にちょっといい鰹節を削ってもらって、他の買い物を戸棚にしまっている間シンクの上に置いておいたのです。

ふと見ると、寝起きのストレッチどころではなく、今まで見たことが無いほど伸び伸びきって、鰹節の袋を取ろうと片手を伸ばした猫の姿が!

かつてシンクの上に飛び乗ってさんざん叱られた上に、ちょうどガスコンロを使っていたので髭を焦がしてしまったことがあったので、上がるのはあきらめたのでしょう。

鰹節欲しい

でもシンクに上がると色々怖い

よし、背伸びだ!

まあ、これもある意味「狩りの準備」なのかも知れませんね。

結局、猫は伸びる生き物なのです

猫とは、普段は背中を丸めて座ったり、まるで液体のように小さな器に納まるくせに、実は骨も筋肉も皮膚も伸びる余地を十分に持っていて、気分や状況しだいで自由にのびのびと過ごす生き物です。

「伸びている猫を見つけたら?」

ストレスからの気分転換かな?と思ったら、そっと見て見ぬ振りをしてあげましょう。

伸びたままじっと物言いたげに見つめられたら、優しく撫でてあげましょう。

暑かったら、涼しく過ごせるように環境を整えてあげましょう。

そして、もしも何かいけない物に手を伸ばしていたら?その時は、きっぱり「ダメ」と言って取り上げましょう。

あなたの猫が、安心して伸びていられますように。

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