肝臓は代謝、分泌、排泄といった重要な機能に関わっていて、生命を維持するため、常にフルではたらき続けているんですよ。
そのため疲れやすく非常に負担がかかりやすいのですが、異常が起きても症状が表に出ないため、猫が肝炎にかかっても飼い主さんがなかなか気づかないことがあります。
肝炎は進行すると治すのが難しくなる病気です。可愛い猫を肝炎から守って元気で長生きしてもらうため、猫の肝炎の特徴や予防法を理解しておきましょう。
猫もかかる肝炎…肝臓の仕組み、肝炎の怖さを知ろう
肝臓に炎症が起きる病気を「肝炎」といいます。ネコの消化器はヒトの消化器とほぼ同じ構造をしていて、人間と同じように猫も肝炎にかかります。
猫がかかる肝炎には次の種類があります。
- 急性肝炎
- 慢性肝炎
- 胆管肝炎
肝炎というのは一つの病気ですが、病状によって「急性肝炎」「慢性肝炎」と呼び分けられます。
急性肝炎は、肝臓が何らかの原因で傷つけられ強い炎症が起こる病気、一方、肝機能が低下してゆるやかな症状が続くものを慢性肝炎といいます。急性肝炎の炎症がおさまった後に完治できず、急性肝炎から慢性肝炎に移行してしまうケースもみられます。
「胆管肝炎」は胆管の病気に定義されることもありますが、胆管とつながる肝臓に炎症を起こすので、関連する病気として紹介します。
まずは肝臓がどのような臓器かおさらいしてみましょう。
肝臓の仕組み
肝臓は消化器のひとつで、横隔膜と胃の間にあります。体の中で最も体積が大きい臓器です。
肝臓は、血液が入ってくる「肝動脈」と「門脈」と血液が出ていく「下大静脈」があり、「胆管」という管が「胆のう」とつながっています。
肝動脈から送られてきた血液は酸素がたっぷり含まれ、肝臓の細胞に必要な酸素を行き渡らせる役割があります。
門脈は肝臓特有の静脈です。消化器から送られてきた血液を受け取る役割があります。
門脈から入ってくる血液には、食べ物から得た栄養素、全身から回収した毒素(アンモニアなど)が含まれていて、肝臓は血液と一緒に栄養素や毒素を受け取ります。
肝臓は毒素を分解して泌尿器で尿と一緒に排出させます。体に必要な栄養素は、血液の出口となる下大静脈から送り出し、血液と一緒に栄養素を全身の細胞に送り込んだり、肺へ送り返したりしているのです。
肝臓には胆汁を分泌する役割があり、胆汁は総胆管から胆のうへ流れていきます。胆のうは袋状の小さな臓器で、胆汁をためておいて十二指腸へ送り出す役割があります。
肝臓が持つ重要な役割とは
肝臓は、酵素を使い分けて化学的な処理を行います。実は、わかっているだけでもそのはたらきは500種類以上あるといわれ、主に次のような機能があります。
- 食べ物を分解して生じた栄養素を門脈から受け取る
- 脂肪を消化する胆汁を分泌する
- 肝臓に送られてきたアミノ酸からたんぱく質や血液成分のアルブミンなどを作る
- エネルギー源のグリコーゲンをためておき、エネルギーが必要な時に排出する
- ビタミンB12や葉酸を合成する
- 毒素を分解して腎臓へ送り、尿と一緒に排出させる(解毒作用)
- 疲労時に生じる乳酸を分解し、グリコーゲンに変える
- 免疫力を高めたりウイルスを駆除して病気から体を守る
肝臓の病気は発見が遅れやすい
しかも肝臓は再生能力がとても高く、少々の炎症は自分で修復することができる高性能な臓器です。
ところが病気にかかっても、ほかの臓器のように痛みなどの自覚症状が起こりません。このことから肝臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれています。
症状に気づかないうちに病気がひそかに進行することが多く、はっきりした症状が出る頃には相当病状悪化していて、手遅れになることが少なくありません。
肝臓は重要な役割を受け持つ臓器のため、もし肝臓に炎症が起こると、肝臓だけでなく体のいたるところに障害が起こるようになってしまいます。
また肝臓の炎症が広がると細胞が壊れて二度と修復できなくなり、最終的に肝機能が不全になると生命が維持できなくなってしまいます。肝臓疾患は厄介な病気なのです。
人の肝炎とは違う?猫がかかる肝炎の原因
猫はどのような時に肝炎にかかってしまうのでしょうか。
ヒトの肝炎は、肝炎ウイルスの感染や飲酒が原因で起こりやすいのですが、ネコの肝炎はヒトとはまた違うさまざまな原因で起こっています。
ウイルス・細菌の感染
猫にウイルスや細菌が感染して肝臓に障害を起こし、肝炎を発症することがあります。猫の場合は、特に猫伝染性腹膜炎(FIP)と細菌感染による胆管肝炎に注意が必要です。
- 猫伝染性腹膜炎
- 猫伝染性腹膜炎は、コロナウィルスに感染することで起こる病気です。全身の血管に炎症を起こして、肝臓や腎臓などさまざまな臓器が障害を受けます。肝臓が肝機能が低下するため、黄疸や腹水がみられるようになります。
- 胆管肝炎
- 胆管肝炎は、何らかの細菌が胆管の周辺に感染し、胆管と肝臓に炎症を起こす病気です。コロナウイルス、猫白血病ウイルス(FeLV)などの感染によって発症することがあります。
寄生虫の感染
猫の体に寄生虫が感染して肝臓に障害を起こすこともあります。
ほとんどの猫が感染しているとされる「トキソプラズマ」は、猫の免疫力が低下した時に、下痢、嘔吐、虹彩炎、肝機能低下による黄疸などの症状を引き起こします。
また肝吸虫が胆管の周辺に寄生して胆管肝炎を発症することもあります。
薬物による中毒
猫の体内に取り込まれた薬物が肝臓を傷つけて、肝炎を起こすこともあります。
肝臓は、有害な物質を代謝して体に無害なものに変えたり体外に排出させる役割がありますが、解毒しきれないほど毒性の強い薬物を取り込むと代謝しきれず、薬物中毒を起こすことがあるのです。
薬の副作用という形で一時的な症状の出ることもあれば、毒性の強い薬物を取り込んだ場合には肝臓に激しい炎症を起こすこともあります。
問題のある食生活
猫も人間と一緒で、かたよった食生活を続けていると肝機能が低下しやすくなるのです。
脂肪やたんぱく質の過剰摂取は肝臓に負担をかけてしまいます。猫の肥満も良くありません。
こんな症状があれば注意して!猫の肝炎でみられる症状
猫が肝炎にかかると、肝機能が低下するために肝臓の持つ役割が果たせなくなり、全身にさまざまな症状がみられるようになります。
肝炎の初期にみられる症状
肝炎の初期は無症状のことも多いです。症状がはっきりしない頃は、ほかの病気と間違えることが多いので、肝炎の発見が遅れてしまうこともあります。
次のような症状がみられるようになったら、肝機能の低下を疑いましょう。
- 肝炎の初期にみられる症状
-
- 食欲がなくなる
- 痩せてくる
- 元気がなくなる
- 被毛のツヤがなくなってくる
- 多飲多尿になる
- 尿の色が濃くなる
- おなかを押すと嫌がる
肝炎の特徴的な症状
肝炎が進行すると上記の症状に加え、肝機能障害に伴う特有の症状もみられるようになります。
- 肝炎の特徴的な症状
-
- 白目、歯茎、耳の中に黄疸が出る
- 腹水がたまってお腹がふくれてくる
- 嘔吐する
黄疸は、ビリルビンという黄色い色素が血液中に増えすぎて、皮膚や白目が黄色く見えてしまう現象です。黄疸が出たら、確実に肝臓疾患を疑います。
肝機能が低下すると、古い赤血球を修復して再利用することができなくなるため、赤血球中のヘモグロビンがビリルビンに変化して黄疸が起こるようになります。
また、ビリルビンは尿中にも排出されるので、肝炎の猫は尿の色が濃くなりやすいのです。
肝炎が進行すると、肝臓が体液の水分を調整するアルブミンが作れなくなり、体液が腹腔に溜まってお腹がふくれることがあります。これを「腹水」といいます。
肝炎の重篤な症状
急性肝炎で激しい炎症を起こしている時、肝炎が重度まで進行した時には、重篤な症状が起こります。
肝臓の細胞が壊れて出血が起こると、吐血や黒色便(血液の混じった便)がみられます。
また、肝臓が代謝や解毒できなくなると、体内のアミノ酸のバランスが崩れたり、毒素が脳に達することで「肝性脳症」を起こし、失明、けいれん、昏睡、意識障害などの神経症状が起こることもあります。
肝炎が進行すると…
肝炎が進行すると、治療の難しい肝臓障害を起こす可能性があるので、進行しないように適切な治療をすることが大切です。
- 肝硬変
- 肝炎が進行すると、肝細胞が破壊して線維組織に置き換わり、肝臓が硬く萎縮してしまいます。この状態を「肝硬変」といいます。
肝硬変まで進行すると肝臓は機能する能力を失い、治療は難しくなってしまいます。
- 後天性門脈体循環シャント
- また、猫の肝炎は、肝臓障害から「門脈体循環シャント」という病気を併発することがあります。
門脈体循環シャントは、消化器から肝臓へ血液が送られてくる門脈の血行障害が起こり、肝臓へ送られるべき血液が肝臓以外の場所へ循環してしまう病気で、重篤になると神経障害、肝性脳症、肝硬変などさまざまな障害が起こるようになります。
猫の肝臓疾患では、先天性の門脈体循環シャントがよく知られますが、肝機能の低下が続いた時には後天性の門脈体循環シャントの併発にも注意が必要です。
猫の肝炎を予防・治療するには
進行すると危険な肝炎から愛猫を守るには、どのような予防・治療をすればよいのでしょうか。
まず、猫が健康なうちから肝臓の健康を気づかい、栄養バランスの取れたえさを用意してあげることも大切です。
そして、定期的に動物病院で健康診断を受けさせ、血液検査で肝機能の異常をチェックすることをおすすめします。
私たち人が健康診断で受ける血液検査と同じで、肝機能の異常は、ALB(アルブミン)、ALT/GPT、AST/GOT、GGT、BUNなどの数値を見ることで、容易に知ることができます。
これも人と同じで「定期検診で異常を指摘され、初めて肝機能低下に気づいた」ということが少なくありません。ほかの病気の予防も兼ね、猫には定期検診を受けさせましょう。
また、猫が感染症のワクチンを接種することは、猫免疫不全ウイルス感染症を予防し、併発する可能性がある肝炎の予防にもつながります。
猫が肝炎にかかったら
猫の体調がいつもと違うと感じたら、早めに受診し原因を特定させましょう。猫の肝臓疾患は、肝リピドーシス(脂肪肝)や肝腫瘍ということもあります。
肝炎と診断されたら、進行を抑えるための治療を始めます。強肝剤、利胆薬、ビタミン剤、漢方薬などを使った薬物療法と食事療法が基本です。
肝炎はさまざまな症状が起こるので、アンモニアの発生、腹水、下痢、門脈体循環シャントなど、それぞれの猫にみられる症状にあわせた治療法が選択されます。
また何らかの病気で肝炎を併発している場合は、病気の治療も並行して行う必要があります。
家庭では、適切な飼育環境を用意して、安静を心がけながら療養させることが回復の促進につながります。
予防と早期発見で肝炎から愛猫を守ろう
「肝心」という言葉があります。これは「特に大事なもの」を意味し、肝臓と心臓のことを指しています。古くから、肝臓は特に重要な臓器としてよく知られていたのですね。
肝臓は沈黙の臓器と呼ばれるだけに、肝炎は知らない間に病気が進行して手遅れになってしまうところが怖いです。
しかし、肝臓は再生機能があるので、肝炎を早期発見すれば治すことも難しくありません。肝炎の多くは、飼い主さんの心がけで予防することが可能です。まずは定期検診の習慣をつけましょう。
みんなのコメント
-
愛猫(アメショー♂4歳)が、食事をしなくなって約1週間が経過したのですが、長い間同じ餌を与え続けたので飽きたものと勝手に考えていました。
流石に様子がおかしいので、たった本日のこと・・動物病院に掛かったところ、黄疸症状があったり血液検査の結果で肝機能数値異常が乱立したりで、急性肝炎との診断により急遽入院となりました。
このサイトの記事を事前に知っていたなら、食欲を失った半月も前に獣医師に診せることができたのに・・悔しい思いです。