猫にとっての歯は、食べ物を食べるためだけのものではありません。襲ってくる敵に立ち向かうための武器であり、獲物を捕らえるための道具でもあります。
人間に比べると鋭く尖っている猫の歯ですが、人間と同じように猫の歯にも乳歯と永久歯があります。生まれて3−6ヶ月頃に乳歯は永久歯へと生え変わっていくのです。猫の歯について、詳しくみていきましょう。
猫と人間の歯の違い
猫の歯について詳しくみる前に、人間の歯についても簡単にみておきましょう。猫の歯と人間の歯には、どのような違いがあるのでしょうか。
人間の永久歯
人間の永久歯の数は親知らずを含めて上下16本ずつ、全部で32本になります。
親知らずは生えてこない人もいますし、生え方が悪かったりすると抜いてしまうことも多く、親知らずを含めないと全部で28本となります。
- 切歯:上下4本ずつ
- 犬歯:上下2本ずつ
- 小臼歯:上下4本ずつ
- 大臼歯:上下6本ずつ(うち上下2本ずつは親知らず)
これらを全て合わせると32本になります。ちなみに人間にとって切歯(前歯)は食べ物を噛み切るための歯であり、臼歯(奥歯)は食べ物をすり潰すための歯になります。
猫の永久歯
それに対して、猫の永久歯は全部で30本になります。
- 切歯(せっし):上下6本ずつ
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犬歯の間に生えている小さな歯
獲物の毛や皮を剥いだりするために使う
飼い猫の場合には、毛についたゴミを取ったり毛玉をほぐすために使う
- 犬歯(けんし):上下2本ずつ
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いわゆる「牙」、口の中で一番目立つ歯
獲物を仕留めたり、ものを咥えて運ぶために使う
喧嘩の時には相手の体に深く突き刺さることもある
- 臼歯(きゅうし):前臼歯は上6本・下4本、後臼歯は上下2本ずつ
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肉の塊を飲み込める大きさにまで裂くために使う
「すり潰す」という働きはあまりない
このように猫の永久歯の数や役割は、人間のものとは異なっています。
人間の切歯(前歯)は食べ物を噛み切るために使われますが、猫の切歯は食べ物を噛み切るというより獲物の毛や皮を剥ぐために使われます。飼い猫の場合には毛づくろいの役割もあります。猫の切歯はとても小さな歯になります。
また人間の臼歯(奥歯)は食べ物をすり潰すために重要な歯ですが、猫の臼歯には食べ物をすり潰すという役割はあまりありません。猫は食べ物をすり潰したりしないで、飲み込める大きさにまで裂いたらそのまま飲み込んでしまうのです。
臼歯は肉を裂くことに使うため「裂肉歯」と呼ばれることもあります。食べ物をすり潰すために噛むわけではないため、噛む回数は少なくなります。そして飲み込める大きさにまで裂いたなら、そのまま丸呑みしてしまいます。
飼い猫の場合には多くがキャットフードだけで、仕留めた獲物を食べるということはまずないでしょう。このようにキャットフードだけ食べている猫の場合には、歯が抜けてしまっても食事に支障をきたしません。
フードを飲み込むだけのため、歯がなくてもちゃんと食べることができるのです。
人間と同じように、猫も乳歯から永久歯へと生え変わる
人間と同じように、猫にも乳歯と永久歯があります。
このとき役目を終えた乳歯は抜けてしまうのですが、抜けたことに気がつかなかったという飼い主さんも多いかもしれません。抜けた歯をそのまま飲み込んでしまうこともよくあり、そのため歯が抜けても気がつきにくいのです。
乳歯を飲み込んでしまっても、特に問題はありません。もしも抜けた乳歯を見つけたときには、ぜひ大切に保管してみてくださいね。
では、猫の乳歯と永久歯についてもっと詳しくみていきましょう。
乳歯
猫の乳歯は全部で26本です。ただ生まれた直後には、まだ何も生えていません。生後3−4週間経つ頃から、徐々に乳歯が生え始めます。
この頃までの食事は、まだ母乳かミルクだけです。しかし歯が生え始める3週間目頃になると、歯があたるために母猫は授乳を嫌がるようになってきます。これが離乳食への切り替え時の合図です。
生後3週目頃から徐々に生え始めた乳歯は、8週目頃までには全て生え揃うようになります。それぞれの歯の本数は、以下のようになっています。
- 乳切歯:上下6本ずつ
- 乳犬歯:上下2本ずつ
- 乳臼歯:上が6本、下が4本
生え揃ってすぐには、まだ歯の根っこの部分が完成していません。強い力がかかると折れたり抜けたりしてしまうこともあるため、注意しましょう。生えてから1ヶ月くらいで完成していきます。
永久歯
先ほども言いましたが、猫の永久歯は全部で30本です。生後3−6ヶ月くらいの時期に、乳歯から永久歯へと生え変わっていきます。
上記の表にもありますが、それぞれの歯の本数は次のようになっています。
- 切歯:上下で6本ずつ
- 犬歯:上下で2本ずつ
- 前臼歯:上が6本、下が4本
- 後臼歯:上下で2本ずつ
人間と同じで、猫も乳歯から永久歯へと生え変わるときには歯の本数が増えます。乳歯の頃にはなかった後臼歯が新しく生えることで、永久歯は乳歯より4本多くなるのです。(ちなみに人間の場合は乳歯20本、永久歯32本です。)
生え揃ったばかりのときには、やはり歯の根っこの部分はまだ未完成です。強い力が加わると折れてしまったりすることもありますから、しばらくは気をつけるようにしておきましょう。
歯の生え変わり方は、人間と少し違います。人間の歯が生え変わるときは、乳歯が抜けてから新しい永久歯が少しずつ生えてきます。永久歯が完全に生えるまでには時間がかかり、途中には歯がない「すきっ歯」の時期があります。
しかし猫の場合には、まだ乳歯が生えている状態の時に永久歯が生えてきます。永久歯がしっかり生えてから乳歯が抜け落ちるという順番なのです。
そのためタイミングによっては、同じ場所に乳歯と永久歯の両方が生えている瞬間を見ることができるかもしれません。生え変わりの時期にはまめに口の中をチェックして、ぜひこの状態を見つけてみてください。
なお小型犬種では、乳歯が残ってしまい噛み合わせが悪くなってしまうということもありますが、猫の場合にはそのようなことが起きることはあまりないようです。
歯の構造自体は、猫の歯も人間の歯もほぼ同じです。その表面は硬い「エナメル質」で覆われています。ただ人間のエナメル質よりは柔らかくなっているため、歯磨きをするときには猫用の柔らかい毛先のものを使うようにしてください。
猫はまだ人間にはわからない謎を持った生き物
ところで、猫の舌には人間にはない特徴があります。猫に舐められたことのある人なら感じたことがあると思いますが、猫の舌は非常にザラザラしているのです。これは猫の舌の表面に「糸状乳頭」呼ばれる、舌の一部が発達した構造があるためです。
糸状乳頭は棘のように硬く、その全ては喉の奥の方へと向かっています。この構造のおかげで獲物の肉を骨から削ぎ落とすことができ、また食べ物や水をすくって口に運ぶこともできます。そして一度口に入れた食べ物が出にくい構造にもなります。
毛づくろいのときにも、この突起のおかげでブラシのように毛をすくことができます。ただしこの突起のために、取り除いた毛は飲み込むしかなくなってしまいます。
舌がこのような構造になっていることについては、色々な役割が考えられています。しかし実は、まだ本当の役割についてはよくわかっていません。人間と猫の歴史はもう長いですが、猫はまだ人間にはわからない謎を残した生き物なのです。