涅槃図には猫がいない理由。でも猫がかかれた涅槃図も存在します!

「涅槃図(ねはんず)」って、聞いたことはありますか?これはお釈迦様が亡くなられるときの様子を描いた絵で、いろいろな寺院に所蔵されています。

お釈迦様の死を嘆き悲しむたくさんの弟子や信者、そして動物達などが描かれていますが、なぜかこの中に猫はいません。

昔から、涅槃図には猫は描かれないのです。これは猫好きさんにとって、ちょっと悲しい問題ではありませんか。

なぜ涅槃図には猫が描かれないのでしょう。ただし少数ながら猫の描かれた涅槃図も存在しています。その理由も探ってみましょう。

お釈迦様は満月の夜、沙羅双樹の木の下で亡くなられた

涅槃図の話をする前に、まずお釈迦様の生涯を振り返っておきましょう。

お釈迦様は紀元前6世紀頃、インドの北部(現在のネパール)で釈迦族の王子として生まれました。何不自由ない生活を送っていましたが、城の外で老いや病気、そして死に出会ったことで悩み、出家者の穏やかな姿を見たことで出家を決意されました。

結婚して息子も一人いましたが、29歳の時に愛する妻と息子を置き、地位も財産も全て捨てて出家されたのです。そして35歳の時、菩提樹の下で悟りを開かれました。その後は布教のために、インド各地をまわられます。

そうして年月が経ち80歳になった時、信者がもてなしで用意したきのこ料理を食べて中毒になってしまいます。旧暦の2月15日の満月の夜、お釈迦様は沙羅双樹の木の下で多くの弟子や信者に見守られながら入滅され(亡くなられた)ました。

お釈迦様が亡くなられる時の様子を描いた「涅槃図」

お釈迦様が亡くなられることを「涅槃(ねはん)に入る」と言います。「涅槃」とは、全ての煩悩(ぼんのう)が消滅した安らぎの状態であり、悟りの境地を表しています。

涅槃図の画像
(出典:涅槃図の解説 玉泉寺コム より)

そして「涅槃図(ねはんず)」とは、お釈迦様が涅槃に入るときの様子を描いたものです。多くの寺院にいろいろな大きさのものがあり、描かれた時代や絵師によって絵に違いもあります。

ただ描かれるものには、いくつかの約束事があります。

まず満月の夜に8本の沙羅双樹の木の下で、お釈迦様は枕を北にしてお顔は西を向いて横たわられています。その周りには多くの弟子や信者がいて、お釈迦様の死を嘆き悲しんでいます。

右上には、雲に乗ったお釈迦様の生母の摩耶(まや)夫人が描かれます。摩耶夫人はお釈迦様を産んだ7日後に亡くなられましたが、今の状況を知り天上界から駆けつけられたのです。

そして動物たちも多く描かれていて、彼らもお釈迦様の死を悲しんでいます。

ちなみに涅槃はサンスクリット語で「ニルヴァーナ」と言います。もしかすると、アメリカのロックバンドを思い出された方もいるかもしれません。イギリスにも同名のバンドがあり、また曲名や映画のタイトルなどにもなっている言葉です。

涅槃図にはいろいろな動物がいるのに、猫はいない

涅槃図にはいろいろな動物が描かれています。例えば牛、馬、猿、虎、鼠など十二支で出てくる動物達がいます。他にもキジ、象、孔雀、獅子など様々です。ラクダやサイなど、日本にはいない動物も想像で描かれています。

古い時代の涅槃図に比べて、後世のものになるほど動物達の種類は多くなるようです。中には蝶や蛾といった昆虫や、亀やスッポンといった水辺の生物が描かれる場合もあります。多いものでは50種以上の動物が描かれた涅槃図もあります。

インド由来の動物達だけでなく、龍のような想像上の動物もいます。現実には弱肉強食の関係にあり、互いに争っているような動物までもが、同じ涅槃図に描かれています。彼らは皆、お釈迦様の死を悲しんで集まってきたとされます。

それなのに、その中になぜか猫は描かれていません。私たちにとってはとても身近で愛おしい存在の猫が、お釈迦様の死を悲しむ瞬間にいないのです。なぜなのでしょうか?

これにはいくつかの説が伝えられています。

お釈迦様の死に間に合わなかったから

お釈迦様が亡くなる直前、そのことを知った牛はいろいろな動物たちに伝えて一緒にお釈迦様の元へ駆けつけようとします。それを聞いたネズミは牛の頭に飛び乗って連れて行ってもらいますが、その途中で猫に会いました。

普段から猫と仲の悪いネズミは牛の耳元で、「猫には黙っておこう」と囁きます。そうして牛に乗ったままでお釈迦様の元に到着したネズミは、着いた途端に牛から飛び降り1番になりました。

牛は2番で、その後に虎、ウサギ、竜と続き、これが十二支の順番になったのです。そして猫はと言うと、ネズミに教えてもらえなかったせいで、結局お釈迦様の死に間に合いませんでした。

遅れてしまった猫は「顔を洗って出直してこい!」と言われ、だから今でもよく前足で顔を洗うのです。またこの事件以来ネズミのことを憎んでいて、そのために猫はネズミを追いかけ回すようになったと言われています。

お釈迦様の薬を取りに行ったネズミの邪魔をしたから

涅槃図に猫が描かれていない理由には、別の説もあります。

お釈迦様を生んだ7日後に亡くなられたお母様の摩耶夫人は天上界に住んでいましたが、お釈迦様が亡くなりそうだと知って天上界から降りてきます。そしてお釈迦様のためにと起死回生の霊薬を投げ落としました。しかし薬袋は沙羅双樹の枝に引っかかってしまい、お釈迦様に届きません。

そこでネズミが取りに行くことになったのですが、猫がその邪魔をしたのです。そのせいで薬を取ってこられず、お釈迦様は薬を飲むことができないまま亡くなられてしまいました。そのために猫は涅槃図に描いてもらえなくなったのです。

このお話は江戸時代に作られて広まったものと考えられています。

涅槃図には8本の沙羅双樹が描かれていますが、そのうちの左側の1本に錦の袋がかかっています。元々これはお釈迦様の持ち物で、托鉢の時に必要な鉢や袈裟が入っている「衣鉢袋」とされています。

遊行(ゆぎょう、僧侶が布教のために各地を巡ること)の際に携帯する錫杖(しゃくじょう、遊行僧が携帯する杖)も描かれています。これらが描かれることで、お釈迦様が遊行の途中で病に倒れられたということがわかるのです。

しかし江戸時代になると、これは摩耶夫人がお釈迦様のために投げた薬袋であるという説が広まりました。そして涅槃図に猫が描かれない理由とともに、人々に広く知られるようになっていったのです。

仏教に対する信仰心がなかったから

猫は仏教に対する信仰心がなく、そのためお釈迦様に嫌われてしまったという説もあります。だから涅槃図にも描かれないというのです。

いろいろな説がありますが、どの説も猫が悪者になっているようで猫好きにとってはなんだか納得できない悲しい説ばかりですね。

お釈迦様が亡くなった時、まだインドに猫はいなかった

お釈迦様が亡くなられた時代にはまだインドに猫がいなかったため、涅槃図に猫が描かれなかったという説もあります。インドに猫が伝わったのは紀元前500年頃とされています。

お釈迦様の生没年については諸説ありますが、紀元前500年前後とされます。そのためお釈迦様が亡くなられた時にはまだインドに猫がいなかったか、いてもまだそれほど知られた存在ではなかったかもしれません。

ただしお釈迦様の亡くなられたときの様子を描いた経典の「涅槃経」には、「猫」という単語が出ているようです。

実は猫の描かれた涅槃図も存在している!

このようにいろいろな理由から涅槃図に描いてもらえない猫ですが、実は猫の描かれた涅槃図も存在しています。

これは依頼主の願いで描かれたものや、猫好きの絵師が自分の飼い猫をそっと描いたものとされています。日本各地に十数例の「猫入り涅槃図」が存在するようです。

そのうちの一つ、京都府の東福寺の大涅槃図には次のような伝説が残っています。

猫が絵の具の谷を教えてくれた

昔、絵を描く際に使う絵の具は今よりもっと貴重なものでした。もちろん今のような絵の具はありませんから、鉱物をすりつぶしたものなどを絵の具として使っていました。

東福寺の涅槃図を明兆(みんちょう)が描いているときのことです。描いている途中で必要な赤い絵の具がなくなってしまい困っていました。するとどこからか猫が現れて、明兆を赤い絵の具の材料のある「絵の具の谷」へ連れていってくれたのです。

おかげで無事に涅槃図を描き終わることができ、明兆は感謝の印に猫の姿を涅槃図に書き込んだとされています。

少し違う説もあります。涅槃図を描いている明兆の元に、ある日どこからともなく絵の具をくわえた猫が現れました。その後も猫は毎日のように現れては、絵の具を持ってきてくれます。明兆はお礼にと涅槃図に猫を描くことにしたのです。

お釈迦様が亡くなったときにはあまり良いところがなく涅槃図にも描いてもらえなかった猫ですが、これによって大きな名誉回復をしたとされます。

猫入り涅槃図のある寺院

猫の描かれた涅槃図について、少し興味が湧いてきませんか?猫入り涅槃図は日本全国で十数例あるとされます。

多くの寺院では、お釈迦様の命日(旧暦2月15日)に涅槃図を掲げてその遺徳を偲ぶ「涅槃会(ねはんえ)」という行事が行われます。この涅槃会の時でしたら、涅槃図を見ることができます。

涅槃会の時期は命日の前後数日ということが多いようですが、寺院によっても違います。現在は3月15日に行われることもあります。

猫入り涅槃図が見られるのは、以下の寺院になります。

  • 京都府「東福寺」
  • 京都府「真如堂」
  • 奈良県「正蓮寺大日堂」
  • 三重県「西念寺」
  • 三重県「龍光寺」
  • 三重県「林性寺」
  • 長野県「善光寺世尊院釈迦堂」
  • 岐阜県「広福寺」
  • 静岡県「東新寺」
  • 群馬県「東善寺」
  • 群馬県「雙林寺」
  • 茨城県「清瀧寺」 など

上記以外にも、猫入り涅槃図のある寺院は少数ながらあると思われます。涅槃図を見るには予約が必要になる寺院もあるため、お出かけの前に確認をお願いします。

これを機会に猫のいる涅槃図を見に行かれてはどうでしょう

「涅槃図」と言われても、今まであまり興味がなかったかもしれません。しかし少し視点を変えるだけで、涅槃図に猫を描いた絵師さんの心にも近づける気がします。

もしもお近くの寺院にも猫入り涅槃図があるようでしたら、猫好きならではの視点で一度見に行ってみて下さい。

みんなのコメント

  • ヌッキー2世 より:

    リクエストでーす💚猫スポットのことですけど、猫がいるホテルを紹介してください。

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