動物の優れた能力というと真っ先に思い浮かぶのが、犬の嗅覚(きゅうかく=においを察知する感覚)でしょうか。一方猫というと、犬にくらべてつかみどころのない、不思議な味のある動物という印象も強いですね。
しかし猫は、実は嗅覚を除けば犬以上に鋭い感覚を持つ動物なんですよ。たとえば口笛を吹くと、猫は鋭く反応します。鳴く、寄ってくる、噛む、あるいは怒るといった犬以上の喜怒哀楽をあらわにします。
口笛を吹いたときの猫の反応、良いor悪い?
猫に口笛を吹くと、怒る、噛むといった反抗的な反応を見せることがあります。これに対し、寄ってくる、甘えるなど、好意的ともとれる反応を見せる猫もいます。口笛に対する反応も猫によって異なるようです。
反応が異なるとはいえ、何らかの反応は(おそらく我が家の無反応猫を除けば)あると考えられます。口笛に反応するということは、きっと猫の聴覚(要は「耳」)に原因があるのではないか・・・の推測は容易に成り立ちます。
人間の可聴周波数は2万Hz(ヘルツ)以下であるのに対し、猫は8万Hzといわれます。
単純計算では「人間の4倍」ですが、実際には4倍どころではないと考えられています。8万Hzというのがどういった音なのか――
特殊な耳を持つ人でもなければ人間には察知することができないレベルの音です。超高音であることは間違いありませんが、人間の耳にはどうがんばっても届かないレベルの高音です。
しかし猫であれば、比較的容易に察知します。猫の聴覚はそのくらい鋭いのです。一説では、猫がトカゲなどを捕らえることができるのも、トカゲ他の小動物が発する高周波音を察知しているからと説明されます。
では、口笛の周波数はどうかというと、実は、口笛は人間にとって最も聴き取りやすい「1000Hz前後」です。「口笛はなぜ、遠くまで聞こえるの」と歌うアニメの主題歌がありましたね。
その答えは、口笛は人間にとって聴き取りやすい周波数だからです。では猫にとってはどうかというと・・・かなり少なく見積もっても人間の4倍以上の聴覚を誇る猫にとって、口笛は少々「うるさい!」音です。
音が猫にとってストレスになることは大いにあり得る
猫といえば鈴。確かに、首輪に鈴をつけた猫は最も猫らしい猫のイメージとして日本人には記憶されますね。しかし猫にとって、自分の首のところでチリンチリン鳴る鈴の音は、不快感の塊である可能性が高いです。
正確なデータ、公式な研究ではありませんが、猫の首に鈴をつけるとその猫が胃潰瘍になるという説もあります。猫にとって鈴の音が大きなストレスになってしまうからです。
とすると、人間の4倍をはるかに上回る聴覚を持つ猫が、人間が至近距離で吹く口笛に好感を持つはずがありません。もちろん「4倍の聴覚」だからといって、猫には4倍のボリュームで聴こえるわけではありません。
人間が聴き取ることができる高音域が4倍のレベルであるという意味です。ですから人間が猫に向かって口笛を吹いたからといって、猫の耳がおかしくなってしまうということはありません。
猫にとって口笛は不快?
ただし、です。耳慣れない口笛という音が、自分の慣れ親しむ飼い主の口からかなりの大音響で猫の耳に届くと考えると、猫が不快感や不信感を抱くその気持ちもよく理解できますよね?
つまり口笛を吹いて鳴くのは「抗議」であり、噛みつく、引っかくなどの凶暴性は「反抗」である可能性が高いです。しかし口笛を吹いて寄ってくる猫だっているではないか・・・
と、おそらく思い当たるでしょう。これは正直猫の性格というか、好みの問題であると考えるのが自然です。きっと見知らぬ人の口笛が聞こえてきても、「うるせえ!」としか思わないでしょう。
でも、大好きな飼い主さんが吹く口笛であるなら話は別。口笛はうるさいけれど、口笛を吹いている飼い主さんはいつも遊んでくれてご飯も食べさせてくれる、可愛がってくれる、自分を愛してくれる人なのです。
であれば、口笛の不快よりも飼い主さんへの愛情や甘えのほうが勝って擦り寄ってくる猫の心理というのも、まったく理解できないこともありませんよね。ここはもうその猫の感じ方次第なのです。
口笛を吹いて猫が見せる反応とそのときの猫の気持ちを推測し、まとめます。
鳴く | うるさいなぁ、やめてよ・・・という抗議 |
---|---|
怒る・引っかく | うるせえ!やめろっつってんだよ!という反抗 |
左右に首をかしげて見つめる | いつものご主人様の声とちがうし耳障りな音が出ているし・・・という戸惑い・不信感 |
寄ってくる、ゴロゴロ | 口笛の不快よりも飼い主が来てくれたことへの甘えや愛情が勝っている |
犬の場合、口笛や歌声、楽器の音、救急車のサイレンなどに反応して遠吠えすることがよく知られていますね。これはそうした音が犬の遠吠えと近い周波数だからなどと説明されることがあります。
猫にとってもこれと同様の理由が隠されているのかもしれませんね。実際男性の太い声は猫にとって「大きな肉食獣」と同じ周波数の音として耳に届くことがあるといいます。
いずれにしても、猫と口笛の関係についての公式な研究は積極的に行われてはおらず、憶測の範囲を出ていないというのが正直なところです。
ネコミミこぼれ話。わが家の猫は犬笛に反応する
みなさんは「ゴールトンホイッスル」をご存知ですか?筆者は普段から犬笛を携行しています。
犬笛は、人間には聴き取ることができない高周波音を発する特殊な笛です。もともとは、人間の4倍ともされる鋭い聴覚を持つ犬を調教するために、フランシス・ゴールトンという人が考案した笛だそうです。
家の近所が山で、山に入るときには大きな動物に遭遇しないよう、必ず犬笛を吹きながら歩くのです。イノシシやクマは非常に鋭い聴覚を持っています。自分の居場所を野生動物に知らせるのが目的です。
家の猫は、基本的には人間の呼びかけに応えることはしません(まあ、猫ですから)。しかし高周波の犬笛の音には、耳だけではありますが、しっかりとこちらに向けて反応します。
ちなみに犬笛が発することができる音は、人間の可聴周波数である2万Hzよりもはるかに高い周波数の音です。吹けば音がしないわけではありませんが、空気音の中にかすかな金属音がまぎれる程度。
ですから犬笛は、楽器や注意喚起の目的としてはまったく使い物になりません。
ただ、「猫を呼ぶ」という目的では意外と有効なんです。夜遅く家の裏の森の中で遊びほうける猫を呼び戻すときに役立ちます。
猫の名前を呼んでも基本的には戻りません。しかし犬笛を吹くと、意外とスンナリと戻ってくることが多い印象です。犬笛の音が聞こえると餌にありつけるという条件反射的な猫の反応なのかもしれませんね。
ちなみにこの犬笛、もうだいぶ昔ですが、以前犬を飼っていたときに購入したものです。ところがいくらがんばっても犬にはまったくこの笛の意味が理解できなかったようです。
正直クマよけ、イノシシよけの役に立っているのかどうかは知りませんが、幸いにも、クマやイノシシとバッタリ鉢合わせ・・・という衝撃のシーンに出くわしたことはありません。
今のところは。
猫の聴覚はとにかく鋭敏!口笛や鈴には十分注意を
今回は「口笛を吹くと猫が妙な反応を示す」というところから、主に猫の聴覚についてお話してきました。猫の聴覚は非常に鋭敏であり、優れた猫の能力の1つであることをご理解いただけたかと思います。
ただ、口笛は猫にとって、どちらかといえば「イヤな音」と感じられる可能性が高いです。ですからあまり猫の前で口笛は吹かないほうが、猫のストレスにはならないと思いますよ。
口笛ばかりでなく、「首輪の鈴」でも猫に多大なストレスを強いる危険があることも、ぜひ覚えておいていただきたいものです。