高齢者がペットを飼うときの注意点3つと猫の将来を考えた終活の方法

猫の飼い主が高齢となり、病気や介護などやむを得ない事情で猫を手放すケースが多くなっています。また逆に、高齢者があらためて猫を飼うことも増えてきています。高齢者が猫を飼うときに必要なことや心構えを紹介します。

また、いざというときのために終活をする場合、これからは飼っている猫のことも考えなければならない世の中になってきています。

高齢者が猫を飼うときの注意点と新しい取り組み

保護団体が猫を譲渡するとき、「60歳以上の方にはお譲りできません」となっていることがあります。確かに、飼い主さんに何かあった場合のことを考えると心配になるでしょう。

ただ、高齢者が単調な生活を送り続けていることよりも、猫を飼うことで刺激がある毎日を過ごしてみてもいいのではないでしょうか。そこで、高齢者が猫を飼うときの注意点や、実際に行われている取り組みを紹介していきます。

高齢者が猫を飼うときの注意点3つ

最初に、猫と人間の寿命を考えてみましょう。2017年12月にペットフード協会が発表したデータでは、猫の平均寿命は15.33歳でした。2017年7月の厚生労働省の調査では、日本人の平均寿命は、男性80.98歳、女性87.14歳となっています。

日本人の平均寿命から、猫の平均寿命を引いてみます。男性80.98-15.33=65.65歳、女性87.14-15.33=71.81歳。平均68.73歳となります。単純に考えると、60歳以上からでも猫の一生の世話をして飼うことができると言えます。

では、高齢者が猫を飼うときの注意点をあげてみましょう。

  • 後見人がいるか
  • 体力に見合う種類を選ぶ
  • 金銭的に余裕があるか

1つずつ説明していきます。

後見人がいるか

飼えなくなったとき、残された猫の世話をしてくれる人を見つけておく必要があります。一時的に入院することになった場合も、家族や周囲のバックアップがあるか、考えておく必要があります。

体力に見合う種類を選ぶ

猫は平均3kg程度なので、体格的には問題ないと思いますが、非常にすばしっこく、物陰に隠れてしまう習性がありますので、猫特有の動きについていけるかが問題となります。

猫の年齢も、子猫と成猫のどちらを飼うかを考える必要があります。成猫の場合は、動きも落ち着いていて体力もあるので、比較的手がかからないでしょう。

金銭的に余裕があるか

猫を飼うには、フードや猫砂などお金がかかります。具合が悪くなった場合は、動物病院に連れて行かなかればなりませんし、治療費もかかります。猫が健康でないと、飼い主さんも精神的に不健康になってしまいます。

猫を生きがいにできたり、精神的な健康のためにも、高齢だという理由だけで、猫を飼う喜びを諦めることはないでしょう。ただし、先ほどの3つの注意点をクリアしていなければ、ご自身で世話が難しくなったとき、それはただの「無責任な飼い主」になってしまいます。

NPO法人「高齢者のペット飼育支援獣医師ネットワーク」では、高齢者が飼っているペットの飼育支援をしたり、新しい飼い主探しなどのサービスを行っています。

このようなサービスを展開する団体があるのはうれしいですが、パソコンを使ったりインターネットが見ることができない方のためのサポートも必要だと感じます。

「70歳からパピーとキトンと暮らすプログラム」を立ち上げている獣医師の活動

先ほど計算した以上に、もっと高齢の70歳からでもペットは飼えますよ、というプログラムを展開している獣医師がいます。このプログラムの対象者は、過去に犬猫の飼育経験があって犬猫の健康管理ができる優良な飼い主さんになります。

万が一、病気や死亡で飼えなくなったときは、病院で引き取るという徹底ぶりです。さらに、75歳を過ぎたら、週に1度は病院に電話をして近況を報告すること。80歳を過ぎたら、動物看護師が定期的にご自宅を訪問して様子を見に行くというルールがあります。

ペットと一緒に入居できる高齢者施設

高齢者施設に入ることになった場合、今まで飼っていた猫と別れなければなりません。少しずつですが、ペットと一緒に入居できる高齢者施設も出てきました。アメリカにある高齢者施設の例を紹介します。

この施設は、人通りの多い街中にあるため外からも中の様子を見ることができるそうです。そのため、興味を持った人が気軽に立ち寄ることができるので、中にいるペットが新しい飼い主に出会える確率も高く、外部に開かれた雰囲気をもった施設になっています。

なによりも入居者の安全が確立されているというメリットがあります。そこまでの施設はまだ日本にはないようですが、きめ細かい配慮がなされた施設ができることを期待したいですね。

終活には猫のことも考えてみましょう

「人生の終わりのための活動」を終活といいます。自分の老後、またはご家族の介護などを考えたときに、ペットについても考えなければならない時代になっています。自分が先に逝ってしまったとき、残された猫が不幸にならないために、どんな準備が必要になってくるでしょうか。

オリジナルのカルテ(記録)をつけておく

自分の猫のカルテを書いておくことです。カルテというと大げさな感じがしますが、猫のプロフィールをまとめておき、次に飼う人、またはお世話をする人がそれを見れば猫のことが全て分かるような記録を残しておくことをお勧めします。

主に書いておきたい項目は次の通りです。

  • 名前(愛称など呼べば来るような呼び方など)
  • 生年月日、性別、かかりつけの動物病院(病院に問い合わせると既往歴などを知ることができます)、入っていればペット保険
  • 普段あげていたフード、使っていた猫砂の種類
  • 性格、好きなこと・物など、飼育上の注意など

例えば、奥様が熱心に猫を飼っていて、先立たれたときに、残されたご主人がその猫のことを何も知らないでいると、きちんと世話をすることができません。

動物病院で働いていたときに実際にあった例です。犬を飼っていたご夫婦で、奥様が先立たれ、ご主人が「なんだかよく分からないけど、動物病院からハガキが届いたから来た」と言って来院されました。

カルテの記録もかなり古くなっており、そのハガキを持参されなかったので、病院側もなにをどこまで処置していいのか、聞き取りに時間がかかったことを覚えています。

このように、家族がいても1人だけが猫の状態を把握していただけでは、いざというときに、どのようなケアをしてあげたらいいのか分からなくなってしまうのです。高齢者に限らず、予期せぬ事故に巻き込まれる場合もあります。

何かあったとき、残された猫のケアが誰でもできるように、オリジナルのカルテを作っておくことをお勧めします。

このカルテのことは、テレビの動物番組で紹介されていた話がヒントになっています。アフリカで獣医師をしている日本人を紹介する番組でした。その方は、大自然のなかで、何匹もの動物と一緒に1人で暮らしていました。

過酷な環境で生活していて、いつ自分に何が起こっても大丈夫なように、一緒に暮らしている動物の詳細を書き残していました。私のこの姿に感銘を受けました。私自身、今飼っている猫と犬のことを、まだきちんとノートにつけられていません。

早いうちに、誰が見ても分かるように作っておきたいと思っています。

家族、友人、知人などの後見人に世話を頼む

先ほど説明した、オリジナルのカルテを渡すことができる相手、つまり信頼できる後見人を見つけておきます。飼うときの注意点でも説明したとおりですが、実は簡単なようでとても難しいことです。

仲が良かった親族間でも相続の問題が起きることがあるように、生き物を預かるわけですから、あとを託す相手は慎重に選びたいものです。

保護施設に預ける

安心できる後見人がいなかった場合、施設に預けるということもあるでしょう。ただ、「施設に預けるから大丈夫」という安易な考えで保護施設を利用しないようにしたいものです。

猫は環境の変化が苦手ですし、他の動物がたくさん収容されている施設ではストレスがかかってしまうからです。

ペットのための信託を利用する

金銭的な余裕はあるけど、なかなか信頼できる後見人が見つからない、といった場合は、ペットのための信託という手段もあります。詳しくは次の項目で説明します。

最後の手段?信託という方法

ペットに相続権はありませんので、遺言書で猫に財産を残します。と書いても無効になります。例えば、親戚の誰さんに財産○○万円を渡しますので、猫のためだけに使ってください、ということはできないのです。それを実現させるためには、ペットの信託という方法があります。

ペットの信託とは、信頼できる民間の団体、会社などにお金を預けて、そのお金でペットに幸せな生活を送らせてあげようという信託制度のことです。

飼い主さんは信託会社と契約を結び、お金を信託会社に預けます。全てはこの契約通りに行われます。次に、遺言書で実際に猫のお世話をする民間の団体などに財産を残すということを明記しておきます。

猫に財産を残すことはできないので、あくまでも信託という契約を引き継ぐためのものです。猫にかかるお金は信託会社から出ます。

このような制度は、行政書士や一部の信託会社で行われていますので、まだ世間的に浸透していない制度ではありますが、将来的に有効な手段であるといえるでしょう。

さらに、ある保護団体では「飼育費用委託金」を払えば、飼い主さんが亡くなったあとにペットを引き取って育てるサービスがあります。また、一般の生命保険の中には、ペットに特化した保障がある商品もできています。

いずれも、高齢者とペットという社会に応じたサービスができつつあるということです。今後も増えていく分野だと思われますので、自分にあった制度を利用して、猫の将来を見守りたいものです。

高齢者だけではありません。いざという時に考えたい猫の将来について

先ほどのオリジナルカルテの話でもふれましたが、高齢者だけでなく、若い方でも何かあったときのための準備は必要です。

テレビで有名になった、ぶさかわ犬の飼い主さんが亡くなりました。飼い主さんが以前入院したとき、その犬は食欲不振とストレスで痩せて毛が抜けてしまいました。

その様子を見て、飼い主さんは犬のお嫁さんや子供になるような犬を探したり、自分以外の人でも散歩ができるようにトレーニングを始めました。再度入院したときも、いざというときのためにビデオメッセージを撮ったりして、常に犬のことを考えながら治療にあたっていました。

私はこれを見て、まさに犬のための終活だと思いました。そうした飼い主さんの願いが通じたのか、その犬は飼い主さんが亡くなったあと、しばらく元気がありませんでしたが、今は前と変わらず家族に囲まれて元気に過ごしているようです。

生きものには最期があります。猫の一生を看取ることも大切で悲しいことですが、自分が逝ったあとのことを考えるのも辛い作業です。ただ、考えることができる人間は、自分が逝ったあと、残された生きもののために準備をしたり、考えてあげることができるのです。

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